KDDIがスタートアップ企業を支援するKDDI∞ラボは、この秋に7期目を迎える。6期までは、KDDIを主体に、案件によってはKDDIの紹介で既存企業が個別に支援を行なってきたが、15日に応募締め切りとなる7期からは「パートナー連合プログラム」として、より深く、積極的に他企業がメンターの一員としてスタートアップ企業を支援する。今回、メンター企業4社に取材する機会を得たのでお伝えしたい。
今回の取材は、「Open MEETing」と呼ばれる、KDDIが主催するベンチャー企業と既存企業の接点の場の直前に行なわれたラウンドテーブルで行なった。
「open MEETing」は月に一度、まれに二度のペースで開催されており、ベンチャー企業と既存企業のネットワーキングの人脈作りとして利用されている。ベンチャー企業側はもとより、既存企業にとっても、ネットワーキングを通じてコミュニケーションを図ることで、∞ラボの主旨やベンチャー企業に対する理解を深めるメリットがあるという。
「パートナー連合プログラム」の参加企業は13社で、こうした企業もこのopen MEETingに参加することで、ベンチャー支援に対する理解を深めたという。
今回お話を伺ったのは、コクヨのRDIセンターでNEXTコア探索グループ クリエイティブ・ディレクションを務める安永哲郎氏と、プラスのジョインテックスカンパニーで執行役員 ヴァイスプレジデントを務める伊藤羊一氏、三井物産で次世代・機能推進本部 新社会システム事業部 スマートシティ事業室でマネージャーを務める松井敏行氏、テレビ朝日 コンテンツビジネス局 コンテンツビジネス戦略部の森悠紀氏の4名。いずれもKDDI外部の支援企業としては、より深い支援を行なう、メンタリング企業として参加する(ほかに、セブン&アイ・ホールディングスもメンタリング企業)。
既存の企業とベンチャーが組むメリットとは
冒頭、KDDI∞ラボを統括するKDDI 新規ビジネス推進本部 戦略推進部長の江幡 智弘氏が「パートナー連合プログラム」の狙いについて説明を行なった。
江幡氏によると既存企業が抱えている課題として、組織として大きいがために「自ら足を踏み入れられない課題」があるという。
その課題に対して一歩踏み出して、新しい事業が生み出せるようにするのが、ベンチャー企業との関わり合いだ。一方で、ベンチャー企業にも問題があり、課題解決に対して迅速な行動ができるものの、肝心の人材やノウハウが足りない場合がある。その橋渡し役となるのが「パートナー連合プログラム」だ。
ベンチャー企業は、ベンチャー間のコミュニティに閉じこもることなく、さまざまな出会いが取り持てるように、∞ラボのような場を通してコミュニティを拡げることで、新たな可能性を見いだすことを願っていると江幡氏は語る。
「もちろん、既存企業についても、メリットは大きい。何か課題があった時に、社内で法務に問い合わせて解決したりすることで、社外の意見を聞く場が狭まってしまっていることが多い。ベンチャー企業に限らず、パートナー企業同士の連携を積極的にしていただいて、∞ラボの枠組みを超えて新規事業が生まれるくらいのことができれば嬉しい」(江幡氏)
続いて、パートナー企業がそれぞれ抱負を語った。
コクヨの安永氏は、一般的なコクヨの文具、家具部門ではなく、研究開発部門に属している。ものづくりに直接関わるのではなく、事業開発やリサーチを行なうことで働き方の研究や学び方の研究を行なって「現在の変化の兆しが未来へどう続いていくのかを研究している」(安永氏)のだという。
∞ラボに対する参加の意義としては、具体的に外部との連携する機会がない中で、「アナログな事業である我々とは違う分野であるデジタル系の方々の連携を通して、強みを取り込んでいきたい」のだという。また、コクヨとして「消費者の需要に応える」形の"マーケットイン"開発とは別基軸の創造性のある開発を行ないたいようで、ベンチャー企業との関わり合いから経験値を高めていきたいとした。
また、テレビ朝日の森氏も、これまでベンチャー企業との接点があまりなかったことに触れ「こうしてパートナー連合プログラムにさんかさせていただくことに意義を感じる」と話した。森氏は、スポーツ番組の記者として番組製作に従事しており、2013年にコンテンツビジネス戦略部に異動。記者経験を活かして、スポーツコンテンツのDVDやPPV、出版などを担当している。
「∞ラボの6期まで俯瞰してきた中で、素晴らしいアイディアが揃っているように見受けられる。革新的なサービスが生み出せるものと期待しているし、メディア企業としてその一助となれるよう尽力したい」(森氏)
ここまでの2社とは異なり、これまでにもベンチャー企業との交流を深めてきたのはプラスの伊藤氏だ。銀行員からキャリアをスタートした伊藤氏は、「新規事業開発など様々なことを何でも屋としやってきた」と胸を張る。
プラスはオフィス環境全体を取り扱う企業で、伊藤氏はその中でもジョインテックスという物流に関する新規事業領域を担当している。2年前からベンチャー連携を模索し続けていると言い、ベンチャーコミュニティの中にも積極的に身を投じる伊藤氏は参加の理由に「KDDIとの関係」をはじめに挙げた。
「KDDIとの関係を構築することが最大のメリットの一つだと言っていい。KDDIの名の下にベンチャー支援を行なっている枠組みがあり、そこに自分たちも入ることに意義を感じた」(伊藤氏)
もちろん、それだけではなく、このプログラムに参加することで「プラスとして、企業として勉強していく」点と、「そうした勉強の上で、既存事業との相乗効果、事業を回せるようにしていきたい」点をプログラム参加のメリットとして挙げた。
4社目の三井物産 松井氏は、商社として化学品や鉄鋼資源などの輸入を行なっているが、それとは異なり「5年後、10年後のビジネスがどうなっていくか考えて新規の事業をやっている」という事業部に所属している。
新規事業分野に携わっている人間として「国内の優秀なスタートアップと会えること」が魅力だと語る松井氏は「大手企業、既存企業では出てこない斬新なアイディアや熱気に触れられる」ことが重要だという。一方で、KDDI 江幡氏も語った「ほかのメンター企業との繋がり、関係構築もできれば良いと考えている」と話し、多岐に渡るチャネル構築の魅力に、参加意義を感じていたようだ。
具体的にどのようなベンチャー支援を行なうのか
ベンチャー企業に取ってみれば、これらの既存企業がどのような支援を行なってもらえるかが重要だろう。
コクヨの安永氏は、コクヨとして「モノや空間を人がどのように使っているのか、そしてどう使っていけるのか」を実験する施設があると話し、それらの場の提供やノウハウが提供メリットを挙げた。
「エコライブオフィス(施設名称)で社員を実験しながら、サービス利用をどんどん実験して欲しい」(安永氏)
一方で、テレビ朝日の支援は、長年行なってきた地上波放送で培ってきたノウハウの提供が大きいだろう。「地上波で何か流してという部分では難しいかもしれないが、コンテンツビジネスやメディア運営、メディア連携のアセットを提供できればと考えています」(森氏)
プラスの伊藤氏は、全国を網羅する営業ネットワークによるテストマーケティングを挙げる。
「物流企業として、大きいものから小さいモノまで全国配送ができる。フェイス・トゥ・フェイスのやり取りができることは大きな武器。あとは、多くのベンチャー企業と会ってきたメンターとしての自分自身が貢献できると思う(笑)。ベンチャー企業との肌感覚はとても重要だからね」(伊藤氏)
三井物産は、「商社という業態柄、海外との付き合いが多い」(松井氏)とのことで、グローバル展開を見据えた"お手伝い"や、様々な産業との連携から、特定市場における市場動向の情報提供と「現場の生の声が伝えられる」点を挙げていた。
クレイジーな起業家を待っている
最後に、ベンチャー企業に求めるものについてたずねると、各社は「新しい技術や考え方」を挙げた。
その中でもプラス、というよりも伊藤氏は風変わりな要件を挙げた。
「毎日ベンチャー企業の人間と会っているので、とにかく楽しみたい。クレイジーなアイディア、クレイジーなアントレプレナーに出会いたい。あとは気合いと根性。3カ月でサービスインまで持っていかなきゃ行けないなかで、そういう要素は重要だ」(伊藤氏)