近年、引き合いの強くなっているトレーディングデスク事業。その引き合いの背景には、広告配信プラットフォームが多く存在していること、DSPの運用には専門の知識が必要となることが挙げられるでしょう。その複雑な広告配信プラットフォームの運用を担っているエスワンオーインタラクティブに運用のポイント、市場を広げていくために行っていることなどを伺ってみました。

始めに髙瀬さんの自己紹介をお願いします。

エスワンオーインタラクティブの取締役をしております高瀬です。前職は株式会社オプトに在籍しておりまして、現在はエスワンオーインタラクティブでトレーディングデスク事業全般のオペレーションを担当しています。運用部門以外にも、営業部門、管理部門も包括的に管掌しておりますので、CをつけるとしたらCOOというポジションでしょうか。

そもそもトレーディングデスク事業とはどのようなものなのでしょうか?

トレーディングデスクと言っても様々な定義があるかと思うのですが、我々が行っているのは広告領域のエギュゼキューション機能の提供です。プログラマティック・バイイングの領域に軸足をおき、DSPなどを利用したディスプレイ広告の運用を主に行っています。

トレーディングデスクと代理店の区別はどこになるのでしょうか?

代理店さんは、純広告やネットワーク広告、マス広告などを利用される場合はそれらも含めたキャンペーン全体の企画を行いますよね。その中でもプログラマティック・バイイングの運用を、弊社のような専門のトレーディングデスクが行います。したがって、”代理店はキャンペーンの全体設計と広告のプランニングと バイイング”、”トレーディングデスクはプログラマティック領域の運用機能”と位置づけられることが多い印象です。よって、お客様の窓口は代理店さんのことが多く、弊社はプログラマティックな運用のプロとして任命される形になります。最近ではプログラマティックな領域のみ、つまり運用型広告のみを利用したキャンペーンを展開されるクライアント様もいらっしゃいますが、そのような場合は直接クライアント様からお問い合わせ頂くこともあります。

S1Oの3つの特徴

御社のトレーディングデスクの特徴はどのようなところにあるのでしょうか?

特徴は3つあります。

1つ目は弊社のトレーディングデスク事業は運用機能に特化していることです。国内において広告の運用だけを担う企業はとても少なく、弊社はその中の1つです。

2つ目は弊社が自社プロダクトを保有していないことです。現在、国内外含めて月平均25程度の広告配信プラットフォームを取り扱っています。広告配信プラットフォームをお客様のご要望に合わせて自由にプランを立てて運用をしております。

3つ目は、しいて言うならといった感じですが、未だニッチなこのトレーディングデスク事業を2005年から展開していることでしょうか。2005年頃から海外からアドサーバーを持ってきて、ビュースルーを見ましょう、CPMです、とお客様にお伝えしていたのですが、当時は進出が早すぎてお客様に理解していただくのが難しかったです。今になってその頃の経験が実務に生かされています。

自社プロダクトを保有してないことが特徴だとおっしゃってますが、プラットフォームを横断的に管理する独自のシステムを開発しよう、というような構想はないんですか?

たしかに構想としてはあります。しかし現状では自社製品を持つ方がリスクになると思っているので、将来的には作る可能性があるという感じです。

どのようなところがリスクなのでしょうか?

プレイヤーや機能が固まりきっていないという点です。現在はDSPさんごとに独自の機能拡充が進んでいる段階ですが、今後はだんだん機能がコモディティ化され、プレイヤーも固まってくると思うんです。そこが見えてきたときに検討したいと思っています。

マーケティングトレーダーの育成こそがキモ

現在では代理店さんの中にトレーディングデスク機能をお持ちのところも多いとおもいます。トレーディングデスクを専門にされている御社の強み、クライアントさんがあえてトレーディング専門の会社を利用する意義はどのようなところにあるのでしょうか?

表面的な強みとしては、私たちは独立したトレーディングデスクの会社ですので、世界中のプラットフォームをしがらみに左右されることなくフラットに見ることができる点が大きな強みだと思います。お客様のご要望に対し、もっとも最適なものをその都度選ぶことができます。

しかし、本質的な強みは、実は別の所にあると考えています。

結局私たちはシステムを持っていない会社ですから、最終的にはトレーダーの能力がそのまま私たちの価値ということになります。コンサルティング会社と一緒ですよね。コンサルタント1人1人の能力や過去の実績・ノウハウが会社の強みそのものということです。ただ、これは無形資産でケイパビリティとして示しずらいんです。しかし明らかにこれらの計測できない強みが存在しますし、そこがもっとも重要な強みだと考えています。

これを下支えするのが、人を育成する仕組みです。弊社では、プログラマティック領域のトレーダーをどこよりも早く、一人前に育成するためのカリキュラム作成にかなり力を入れています。カリキュラムの精度も上がってきており、最近ではお客様のインハウスでのカリキュラム提供にも話が広がってきているんです。

このようなカリキュラム提供の話を頂くのは、デジタルマーケティングの領域にきちんとノウハウを持った人材が少なく、またプロフェッショナルを育成するプログラムもほとんどないからだと思います。私たちはこの人材育成のノウハウが最も大きな価値だと考えています。

人材確保の点だと、海外では異業種、特に金融業界のトレーダーを積極的に採用したりしているかと思いますが、それについてはどう思われていますか?

ダメだとは思っていません。トレーダーとしては、引き抜きの方がすばやく戦力となってくれるので育成コストもあまりかからないでしょう。なので、引き抜きを行わないのは弊社のスタンスの問題です。

例えば前職でデイトレーダーをやっていた人に、広告ノウハウを教えて、実践してもらうのであれば手っ取り早いです。ただ、広告やマーケティングを理解したトレーダーとシステマチックなトレーダーは意味が違うと考えていて、弊社では前者が重要だと思っています。お客様のビジネスモデルの理解、コミュニケーション力、コンサルティング能力があった上でのトレーダーでないと、あまり価値が見出しずらい。なので我々のスタンスには育成の方が合っていると思います。また、弊社はそういった観点からトレーダーのことを”マーケティングトレーダー”と呼んでいます。クライアント様の事業を推進し、利益を上げていくという意味合いです。

また、別の目的で弊社が育成を重んじているというのも理由としてあります。現在、弊社は企業文化を作り上げていくフェーズです。業界が若いことや、社員の半分が社会人歴3年未満ということで、企業文化が根づいていないんです。ただし、その3年未満の社員というのは、RTBネイティブというのでしょうか、RTBという概念が出来た年数より短い期間を働いているわけで、この業界で最初からRTBが出来る環境で働いています。つまりはこの業界ではベテランということになります。このRTBネイティブ世代が今後活躍し業界を盛り上げていく。その波を作り出すためにも、このRTBネイティブ世代を育成し、新しい企業文化を作り上げていこうと思っています。

実際の育成プログラムではどのようなことを行っているんですか?

一例ですが、新卒育成カリキュラムでは最初にログ解析をさせます。DSPからダウンロードできるデータを見て、そのログから何が見えてくるかを1人ひとりが一生懸命考えるんです。新卒にはログを感じてもらいたい。しかし自社の研修ですべてを網羅できるわけではないので、外部の研修も合わせて行い、複合的成長してもらえるように工夫しています。

トレーダーになるための、社内的な資格はあるんですか?

「認定」のような制度はまだ作っていないんです。しかしここは鋭意検討中でして、先ほどお話した弊社の強みは無形資産であるという点で、それを可視化する意味でも必要かなとは思っています。そしてゆくゆくは、それをトレーディングデスク界のスタンダードにしていきたいですね。

良いDSPの特長は”開示されるデータ量が多いこと”。

御社のクライアントなるのはどんな業種の企業様が多いのですか?

弊社のトレーディングデスクと言う性質上、ダイレクトレスポンスのお客様が全体の8割から9割を占めています。ブランディングのお客様が残りの1割から2割という形です。業種においては多様でして、業種にあまり偏りはありません。

トレーディングデスクとして、良いDSPの特長みたいなものあるのですか?

最近のDSP各社さまはすでに多くのSSPやアドネットワークを接続しているので、配信面での差別化はそれほど大きくないと思っています。その中でトレーディングデスクとして運用しやすいのは「データの開示」がされていることです。具体的には、DSPの運用から取れる「情報量が多いこと」、「情報の種類が多いこと」、「変数が多いこと」、これに尽きます。

トレーダーはお客様のご要望に対し企画・運用を行うので、効果測定がしやすく、PDCAをしっかりと回せるものが良いDSPだと思っています。運用してみて効果が良い悪いに限らず、なんで良かったのか悪かったのかが分からなければ、次の運用に生かすことができません。トレーダーの腕が問われるのもこの運用の部分です。お客様からツールの指定を頂くことはほぼ無いので、どのDSPを使うかを選ぶのはトレーダーが決定し、運用を行っています。

一つのクライアントさんに複数のDSPを運用したりするんですか?

ご予算にもよりますが、平均的に2~3つのDSPを運用しています。先ほどお話したところだと、DSPによって配信面は変わらないのに、なぜ複数のDSPを運用するのかという疑問が湧くと思います。理由は、DSPによって取得できるデータが違うこと、DSPを同じ方法で接続して同じ金額でBiddingをしているのにDSPによって配信量が異なることがあるからです。ここは複数DSPを運用してみないと気付かないことなので、DSPごとのデータを見ながら日々運用を変えています。

具体的にいうと、”A社のDSPとB社のDSPを運用して、同じように入札して、同じ面に配信されているはずなのに、平均約定金額が違う”みたいな例です。そういう結果が出たら、次はA社のDSPから取れたデータをB社に生かしてみるとどうなるか、のように分析傾向をブリッジさせる、という作業を行っています。

今後SSPに望むことはありますか?

難しい質問ですね。最近増えてきている話だと、プログラマティックな領域に熱心に向き合おうとしている広告主様から優先取引の話が出てくることもあります。それらを柔軟に対応できる枠組みで構築して頂けるととても嬉しいと思います。ただ、そこのエコシステムは米国のように整っていないので、まずは案件別に調整する形から始まるとは思っています。

機能は外に、ノウハウは中に

今後トレーディングデスク事業はどうなっていくと思いますか?

今後、世の中のトレーディングデスク事業は内製化する傾向になると思います。運用する領域が広がって、機能は外に、ノウハウは中に貯めていくようになるのではないでしょうか。弊社ではすでに始めていますが、インハウスでのトレーダーの提供を積極的に進めています。弊社で培ったカリキュラムを使ったり、運用内容を開示することで、どんどん社内にノウハウが貯まります。なのでクライアント様には、事業を一緒に推進していくためのパートナーシップを組めるようにしていきたいなと思っています。いかに事業にコミットできるプロフェッショナルを社内に取り込むかという向き合い方のクライアント様が増えると弊社も嬉しいです。

また、プログラマティックな領域は今後より広がっていくと思います。現時点では広告の領域が中心かと思いますが、デジタルサイネージやグーグルグラスやIOTなどに領域が広がって、広告とは別の領域でそれらの運用機能としてトレーディングデスクが存在するようになるかもしれません。一方で広告やマーケティングの世界において一部ではオートメーション化が進んでいますが、人的な運用タスクは継続して残ると弊社は考えておりますので、その考えをもって我々の事業を推進していければと思います。

最後に一言お願いします!

現在トレーディングデスクの領域は成長段階です。代理店を始め、各広告配信プラットフォーム業者などの同業がひしめき合う中でパイを取り合うのは不毛だと思っています。クライアントの事業を推進するためにパートナーシップを組んで、お互いを成長させあいながら市場を広げていきましょう!

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本稿は、adingo Marketing Magazineに掲載された記事を転載したものです。