米IBMの研究部門は8月7日(米国時間)、コグニティブチップ「SyNAPSE」を発表した。これは、人間の脳に着想を得て開発したチップで、今後数年で人間の脳のように右脳と左脳の両機能を備えたコンピューティングインテリジェンスを実現していくと見通しだという。
IBM Researchの研究チームが同日、英文科学誌「Science」に「SyNAPSE」の発表を行った。SyNAPSEは、これまでコンピューター分野が追求してきた言語や分析など左脳的な働きに加え、右脳の神経細胞のように働くチップを組み合わせたもの。
神経細胞側は感覚やパターン認識を可能にし、従来の左脳的機能との組み合わせによって人間の脳のようなチップを目指す。これまでのコンピューターがデータの処理にとどまっていたのに対し、データの変換、さらには学習が可能になり、データ量が増えて学習が増えるほど認識が改善するという。「過去70年続いてきたフォン・ノイマン型のアーキテクチャを変革する大きなブレークスルー」とIBMは記している。
「SyNAPSE」は、2011年に開発された初期プロトタイプの第2世代目となり、サムスン電子製の54億個のトランジスタを土台に、100万個のプログラム可能なニューロンと2億5,600万個のプログラム可能なシナプスで構成される。
メモリ、処理能力、通信機能を統合したニューロンのコアは1個から4096個に拡大、このコアをネットワーク化させたアーキテクチャを持ち、分散・並列処理が可能。シングルチップの壁を越えてシステムをスケールさせるため、ボードに並べられた時に隣り合ったチップがシームレスに接続することができる、ニューロ・シナプティック・スーパーコンピュータの将来の基礎を築いている。
IBMはスケーラビリティを実証するため、1,600万個のプログラム可能なニューロンと40億個のプログラム可能なシナプスを有する16チップ・システムを公開した。
省電力性も特徴で、既存のチップが常時稼働であるのに対し、「SyNAPSE」はイベントに応じて動き、必要な時にオペレーションを行う。消費電力は初期プロトタイプの10分の1になり、70ミリワットまで下がった。
IBMは「SyNAPSE」を活用した試作品として、クラゲのように浮かんで航路を監視する「Jellyfish Sensors」や災害地で被害者の位置を完治するために用いられる可能性がある「Roller Bot」を紹介している。
SyNPASEは、IBMが積極的に研究開発を進めているコグニティブコンピューティングの一部となる。コグニティブコンピューティングは人間の脳のような知覚、行動、認識の実現を目指すもので、センサーを利用した認識が可能となることでモバイルやモノのインターネット(IoT)分野を大きく前進させるとの見通しを示している。