東京大学は8月5日、グラフェンに続くシート状の構造を持つ物質として着目されている二硫化モリブデンが、バレートロニクスと呼ばれる新しい低消費電力デバイス用の材料として非常に有力であることを実験的に証明したと発表した。
同成果は、同大大学院 工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 物理工学専攻の岩佐義宏教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発デバイス研究チーム チームリーダー)らによるもの。同研究科 物理工学専攻の石坂香子准教授、理化学研究所 創発物性科学研究センター 計算物質科学研究チームの有田亮太郎チームリーダー、広島大学 放射光科学研究センターの奥田太一准教授らと共同で行われた。詳細は、英国科学雑誌「Nature Nanotechnology」に掲載された。
近年、低消費電力エレクトロニクスに向けてさまざまな試みが行われているが、その中で最も基盤的なものは、電荷の流れ(電流)ではなく、電荷をもたない"何か"の流れを情報担体として用いることにより、熱の発生を最小化するという考え方である。例えば、"何か"をスピンに選び、スピン流を制御する技術の確立を目指す試みはスピントロニクスと呼ばれている。その他にも、"バレー"と呼ばれる新たな量子力学的自由度を工学的に応用する試みとして、"バレートロニクス"が提案されている。
今回、研究グループは、二硫化モリブデンと呼ばれる、グラフェンと同じ蜂の巣格子の結晶構造を持つ物質を対象に、スピン・角度分解光電子分光法と、発光スペクトルの2つの実験を行うとともに、第一原理に基づいた理論計算を組み合わせることによって、二硫化モリブデンが、バレーに依存したスピン分極など、バレートロニクスの基本となる特殊な性質を持っていることを証明した。今回の成果をもとに、二硫化モリブデンを用いた新しいバレートロニクスの原理研究が加速され、低消費電力エレクトロニクスへの礎となることが期待されるとコメントしている。