東京大学は8月4日、物質中に生じるらせん型に配列した電子スピンが、光の進行する向きに依存して光吸収を大きく変化させる機能性を有していることを発見したと発表した。

同成果は、同大大学院 工学系研究科の高橋陽太郎特任准教授、木林駿介大学院生(当時)、十倉好紀教授、および理化学研究所 創発物性科学研究センターの関真一郎ユニットリーダーらによるもの。詳細は、英国のオンライン科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。

研究グループは、らせん型に電子スピンが配列したとき、ギガヘルツからテラヘルツの周波数帯にエレクトロマグノンと呼ばれるスピンの集団運動が現れることを発見した。さらに、らせん型のスピン配列が持つ"磁性"と"カイラリティ"という2つの性質によって、エレクトロマグノンが巨大な磁気カイラル効果を示すことを明らかにした。そして、磁気カイラル効果により、光の進行方向に依存して吸収係数を最大400%変化させることに成功したという。

将来の大容量通信など、さまざまな応用が期待されている高周波のギガヘルツ帯からテラヘルツ帯では、光(電磁波)の制御のための技術開発が行われている。今回の結果は、アイソレータや、物質の光吸収を外部の電場や磁場で操作可能な光(電磁波)制御素子としての展開が期待できるとコメントしている。

磁気カイラル効果による方向2色性の模式図。磁気カイラル効果は、光の進行方向に依存して物質の光応答が変化する方向2色性という特殊な現象を引き起こす。さらに、光が物質によって吸収される方向は、カイラリティ(右手系と左手系)の入れ替えや、磁化(磁石の向き)によっても制御することができる。このため、電磁波や光の送受信の信号の干渉を防ぐアイソレータ、透過方向が簡単に制御できる素子など、新しい原理に基づく電磁波制御デバイスとして幅広い応用が期待されている