細胞の接着は生物にとって極めて重要である。体内で免疫を担うリンパ球が適切に移動していく際に、細胞接着因子が前方に集まっていく仕組みを、北里大学理学部の片桐晃子(こうこ)教授と錦見(にしきみ)昭彦准教授らが分子レベルで解明した。免疫反応の理解を深め、免疫疾患の病態究明や新しい治療法にもつながる発見といえる。関西医科大学の木梨達雄教授らとの共同研究で、7月29日付の米科学誌サイエンスシグナリングに発表した。同誌はこの研究結果のイメージを表紙に掲げて、発見をたたえた。
血液中を流れるリンパ球は、体内に侵入した病原体などの異物を攻撃して排除する役割を担っている。この過程で、リンパ球は血管内皮細胞や樹状細胞などとの接着が厳密に制御されている。それが動物の免疫監視の根幹をなす。リンパ球がほかの細胞に速やかに接着するには、LFA1という接着因子が細胞前方に集中的に出てくる必要がある。しかし、その仕組みは謎だった。
研究グループはマウスのリンパ球でLFA1の動きを探った。LFA1はリンパ球の細胞膜に散在するほか、多数の予備群が細胞内部にある小胞にくっついている。 この小胞の細胞内輸送に関わるタンパク質を調べた。その中で、Rab13が不活性型から活性型に変わると、それが「荷札」となってLFA1の集中的な輸送が起きていることを巧みな実験で突き止めた。この輸送には細胞内のモータータンパク質のミオシンが複合体を形成して機能していた。
Rab13を働かないようにしたリンパ球では、表面にLFA1が集積せず、接着活性や運動能力が低下していた。Rab13を欠損したマウスを作ったところ、リンパ球は移動できず、リンパ節や脾臓の発育が悪かった。一連の実験データをまとめると、リンパ球の免疫機能の発現には、Rab13 が機能してLFA1が細胞内で輸送され、細胞膜の局所への集積が欠かせないことがわかった。
片桐晃子教授は「5年以上かけて苦労して研究した集大成だ。リンパ球が正常に機能するには、こうしたLFA1の細胞内輸送が介在している。LFA1が集中的に運ばれていく細胞膜の部分がリンパ球の前方になる。この発見は、リンパ球による全身の動的な免疫システムの理解に貢献し、免疫疾患の新しい治療法の確立にも役立つだろう」と話している。