北海道大学(北大)は、紫外、可視、近赤外領域の広い波長域で光エネルギーを電気エネルギーに変換(光電変換)できる酸化物半導体基板に金ナノ微粒子を配置した光電極を作製し、人工光合成への展開を図ったと発表した。

同成果は、同大 電子科学研究所の三澤弘明教授、押切友也助教らによるもの。詳細は、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。

今回、酸化物半導体の1つであるチタン酸ストロンチウムの単結晶基板上に、光アンテナ構造として髪の毛の太さの1/1000程度の金ナノ粒子(平均粒径50nm程度)を高密度に配置し、その背面に窒素をアンモニアへ変換する助触媒として、ルテニウムの微粒子を配置した電極を作製した。この作製した電極を金ナノ粒子側が酸化槽、ルテニウム側が還元槽に接するように設置し、酸化槽にエタノールを含むアルカリ性水溶液を、還元槽に酸性窒素ガスを封入し、可視光を照射することによりアンモニアの合成を行ったという。

そして、作製した金ナノ構造/チタン酸ストロンチウム/ルテニウム電極への光照射に基づいて可視光領域でのアンモニアの生成が確認され、反応のみかけの量子収率(入射した光子が反応に使われた電子に変換された比率)はプラズモン共鳴スペクトルの形状と良く一致することがわかった。この結果から、プラズモン共鳴に基づく電子とホールの分離が窒素のアンモニアへの変換に重要な役割を果たしていることが明らかになった。その原理は、光アンテナによって効率的に集められた光子によって金の電子が高いエネルギーレベルまで励起され、チタン酸ストロンチウムおよびルテニウムへの電子移動と、ルテニウム表面上での窒素の還元によるアンモニアの生成を誘起しているものと考えられるという。

また、今回の研究の注目すべき点は、可視光領域のほぼ中心であり、太陽光に豊富に含まれる600nm近傍をピークとした光での窒素の反応に成功していることである。これまでに報告されていた窒素の光反応では、最も波長の長い光でも455nm程度の光エネルギーが必要だったが、今回の成果は、より長波長でエネルギーの低い光を光アンテナを用いて有効利用できることを示している。この結果から、太陽光中に含まれるエネルギーを余すことなく化学エネルギーに変換可能な"人工光合成"の実用化への展開が期待されるとコメントしている。

アンモニア合成に関する量子収率、およびプラズモン共鳴効率の波長依存性

光照射に基づいて金ナノ構造からチタン酸ストロンチウム、ルテニウムへの電子移動と窒素の還元に基づいてアンモニアが発生する様子を記した模式図