東京大学は7月25日、次世代のパワーデバイス材料として期待されるSiCと、その上に形成される絶縁膜材料との間の界面欠陥を大幅に低減し、理想性能に近づける新しい改質手法を開発したと発表した。

同成果は、同大大学院 工学系研究科の喜多浩之准教授らによるもの。詳細は、米国物理学協会発行の応用物理学誌「Applied Physics Letters」のオンライン版に掲載された。

従来の半導体材料Si(シリコン)を用いたパワーデバイスによる電力の利用効率は限界に近づいているが、SiCは、低電力損失での制御・動作が可能であるのに加え、機器の小型化、低コスト化、高電圧機器への適用が実現できるなど、次世代パワーデバイスの理想的な材料として期待されている。しかし、SiCを用いてパワーデバイスの構成素子であるトランジスタを作成しても、現状では電気抵抗が大きい、動作信頼性が低いなどの課題が生じており、原因となっているSiCと、その表面に形成されるゲート絶縁膜材料であるSiO2との間の界面欠陥を減らすことが求められていた。

今回、研究グループは、ゲート絶縁膜を形成する際に欠陥を生じさせるSiC由来の副生炭素を一酸化炭素(CO:気体)として排出する反応条件を用いることで、界面欠陥を大幅に低減できることを発見した。そして、同手法によるデバイス素子のモデル構造を試作し、界面状況を観察した結果、欠陥(界面欠陥準位密度)が世界最小値となる1011cm-2eV-1以下へ低減できることを実証した。同手法は、窒素系ガスを添加するなどの付加的プロセスなしに、高い品質の界面を実現したものであり、各種産業における利用が期待される手法と考えられる。これにより、長期安定性も含めたSiCパワーデバイスの性能向上と普及が可能となり、エネルギーの高効率利用への貢献が期待できるとコメントしている。

(左)SiCトランジスタ、および(右)新手法により形成したSiO2/SiC界面の模式図。新手法のSiCの熱酸化は、酸素の拡散(流入)、酸化反応(界面でのSiO2形成)、副生成物の炭素の放出(CO拡散)の3段階で進行する。炭素のCOとして除去される過程を促進すれば、理想的なSiO2/SiC界面構造の形成が阻害されず、界面欠陥の低減が期待される