ゲノム(全遺伝情報)は人類の共有財産である。解読されたゲノムに重要な種が加わった。主要穀物のコムギの塩基配列概要が国際コムギゲノム解読コンソーシアムによって公開された。コムギの品種改良などに貢献するひとつの到達点である。日本からは農業生物資源研究所(茨城県つくば市)と京都大学農学研究科、横浜市立大学木原生物学研究所、日清製粉つくば穀物科学研究所が参加した。7月18日付の米科学誌サイエンスに発表した。
コムギは生産量が世界2位で、1位のイネ、3位のトウモロコシとともに、人類の生存を支え、文明の基盤になってきた。世界の人口がなお増え続けている21世紀にも、さらなる品種改良の「緑の革命」が求められており、このためにもゲノム解読が必要だった。しかし、全ゲノムがイネの40倍にも上り、巨大で複雑すぎるため、ゲノム概要解読配列がイネで2002年、トウモロコシで2009年に公開されたのに比べて、大幅に遅れていた。
国際コムギゲノム解読コンソーシアムは2005年に結成され、コムギ遺伝学の実験に広く使われている「チャイニーズ スプリング」という品種を対象に、15カ国約100人の研究者が染色体ごとに分担して解析した。コムギは、異なる3種類の野生種が交雑して形成された。そのゲノムからなる6倍体、計169 億対もの塩基配列の61%の領域の解読を終えた。
その中に約12万個の遺伝子がある、と研究グループは推定した。日本のグループはコムギの21対の染色体のうち、6B染色体(イネ全ゲノムの2.5倍の9億1400万対)の解読を担当した。
研究グループは「今回、公開したゲノム概要配列は、解読量が十分に多く、染色体ごとに区別されており、利用価値が高い。病気に強くて、栽培しやすく、収穫量の多いコムギ品種づくりなどを加速させることが可能となる。最終目標の高精度ゲノム参照配列(すべての染色体について85%以上解読)の決定に向け、引き続き共同研究を続ける」としている。