東京工業大学(東工大)と物質・材料研究機構(NIMS)、名古屋大学は7月16日、最も広く使われている圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛の単結晶膜を作製し、電気的エネルギーと機械的エネルギーの変換係数を直接測定することに成功したと発表した。

同成果は、同大大学院 総合理工学研究科の舟窪浩教授、物質・材料研究機構(NIMS) 中核機能部門の坂田修身高輝度放射光ステーション長、名古屋大学大学院 工学研究科の山田智明准教授(科学技術振興機構 さきがけ研究者)らによるもの。詳細は、「Applied Physics Letters」のオンライン版に掲載された。

圧電体は、電気信号により構造が変化する性質を生かして、ガスコンロの着火器や加湿器のミストの作製、さらにはインクジェットプリンタ、3Dプリンタで使用されるMEMSなどの動力源として利用されている。実用化されているチタン酸ジルコン酸鉛は、電気信号によって結晶構造や微構造が複雑に変形するため、これまで60年間も使用されているにも関わらず、電気的エネルギーと機械的エネルギーの変換係数という圧電体で最も基本的な特性が明らかになっていなかった。最大の原因は、ドメインの効果を完全に排除したチタン酸ジルコン酸鉛の単結晶がほとんど作製できていないためであるという。

今回、研究グループでは、チタン酸ジルコン酸鉛Pb(Zr1-xTix)O3を、蛍石という特殊な結晶の上に合成することで、膜状の単結晶の作製に成功した。さらに、これを用いて、大型放射光施設SPring-8の高輝度放射光で高速に電気信号を加えたときの結晶格子の伸びを、直接観察した。その結果、20ナノ秒以下という極めて短時間の結晶格子の歪みを観測することに成功し、電気的エネルギーと機械的エネルギーの変換係数を測定することに成功した。

今回の成果より、チタン酸ジルコン酸鉛の本質的な圧電性が明らかになったことで、圧電体の設計が飛躍的に進み、圧電体の性能向上が期待できる。また、チタン酸ジルコン酸鉛は毒性元素の鉛を重さで50%以上含有しており、環境への配慮から非鉛圧電体の開発が強く求められている。今後、非鉛圧電体開発のターゲットとなるチタン酸ジルコン酸鉛の圧電特性が明らかになったことで、目標とすべき値が明確となり、現在盛んに開発されている新規な非鉛圧電体材料の開発が加速することが期待できるとコメントしている。

電界を加えた時の結晶の伸びと電気特性を直接測定できる測定システム