鳥類の脳の奥深くで、神経細胞が光を直接感知して、恋の季節である春の訪れを知る光受容器を備えていることを、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の吉村崇(たかし)教授と中根右介(ゆうすけ)博士らが見つけた。目とは異なる光の感知システムが繁殖活動に関連することを実証する研究として注目される。7月7日付の米科学誌カレントバイオロジーに発表した。
哺乳類以外の脊椎動物が脳深部で光を感じることは100年以上前から知られていたが、脳深部の光受容器の実体は謎だった。今回、研究グループはウズラの脳深部に存在する「脳脊髄液接触ニューロン」が光に応答することを突き止めた。他の神経細胞からこの神経細胞への入力を遮断しても、光に対する応答性は消失しなかったため、直接光を感知していることがわかった。
この神経細胞の細胞膜には、「オプシン5」という光受容タンパク質が発現している。オプシン5の働きをRNA干渉法で阻害すると、脳に恋の季節の春を告げる「春告げホルモン」の誘導が抑制された。研究グループは実験結果から「オプシン5を発現する脳脊髄液接触ニューロンこそが、脳内で光を直接感知し、繁殖活動を制御する脳深部光受容器である」と結論づけた。外部の光はわずかだが、脳の組織をすり抜けて、千分の1 程度は内部まで届き、明るさは判定できる。
熱帯以外の地域に生息する動物は、光による日照時間の変化をカレンダーとして利用し、季節の変化に適応している。多くの動物は、子孫が温暖で食料が豊かな時期に生息できるように、特定の季節に繁殖する「季節繁殖」という生存戦略をとっている。春は繁殖にふさわしい。哺乳類は目が唯一の視覚だが、哺乳類以外の鳥類などは脳で光を直接受容して、日照時間の変化を感知している。今回の研究で、その「脳内の目」といえる光受容器の実体がオプシン5とわかった。
また、目の網膜細胞と脳脊髄液接触ニューロンはともに繊毛をもつ。発生学的に見ると、目は脳の第三脳室から膨らんで形成されることも、光受容器としての共通性があった。吉村崇教授らは「目を含む光受容器の進化という視点から興味深い。ヒトでも、このオプシン5というタンパク質がある。その機能も調べたい」と話している。