アドビ システムズは16日、日中韓3カ国語のほか、ラテン、ギリシャ、キリルの各文字をサポートするオープンソースフォント「Source Han Sans」をリリースしたと発表した。
日中韓で用いられる「漢字」は起源こそ同じであっても、文字によっては地域ごとに異なる字形のバリーションを持つものもある。このことから、従来のフォントは言語ごとに開発され、中国語についても繁体字と簡体字とで別々のフォントとして提供されていた。今回発表された「Source Han Sans」は、日本語、中国語、韓国語の3カ国語に対応した初のオープンソースフォントで、これら3カ国語および地域別バリエーションを、同一フォントファミリーとしてサポートしている。印刷物やWEBサイトなどで言語に関係なく利用できるうえ、複数のフォントライセンスを取得する必要も不要ということだ。
アドビ システムズ 日本語タイポグラフィ シニアマネージャー・山本太郎氏は、同フォントの開発に至った背景について、「日中韓(CJK)の読者は世界の人口の約1/4にあたる15億人もの人々が使用し、文字の数が非常に多いうえに各地域に合ったフォントを作成しなければならない」との問題点を挙げ、Webやモバイル端末での文字による情報交換が活発化されたこともあり「東アジア諸国の言語をカバーするフォントのニーズがあるのではないかと考えた」と語った。
また、経緯について、約4年前にオープンソースの「Pan-CKJフォント」に関心を持っていたGoogleと、同じくオープンソースフォント「Source Sans」を開発に着手していたアドビ システムズが手を組み、「イワタ」(日本)、「Changzhou SinoType」(中国)、「Sandoll Communication」(韓国)といったフォントメーカー3社の協力のもと、3年以上の歳月をかけて開発・デザインされたという。なお、プロジェクトの進行管理や書体デザイン、技術上の専門的な知見はアドビ システムズが提供し、パートナー各社による開発費用の提供、要件定義、テスト、フィードバックなどはGoogleが担当したということだ。
「アドビ システムズ マーケティング本部 デジタルメディア マネージャー・岩本崇氏による「Source Han Sans」の技術的な解説 |
日中韓3カ国語と香港および台湾の文字セットに対応し、それぞれ7つのウェイト(太さのバリエーション)からなるフルセットフォントと、地域別のサブセットフォントで構成される |
「Source Han Sans」は、ひとつのフォントファミリーの中で、日中韓の3カ国語(地域ごとの異体字)と、香港および台湾の文字セットに対応し、それぞれ7つのウェイト(太さのバリエーション)からなるフルセットフォントと、地域別のサブセットフォントで構成されている。OpenTypeフォーマットとしては最大数の6万5,535文字を収録し、その容量はフルセットフォントで19MB未満と、類似フォントと比べてとても軽いのが特徴だ。ちなみに、同フォントはGoogleからも「Noto Sans CJK」という名前でリリースされるということだ。フォント全体の提供形態としては、7個の多言語OTC(オープンタイプコレクション)と7個の多言語OTF(オープンタイプフォント)、そしてそれぞれが個別になった28個の地域別サブセットの総計42フォントが用意されるという。
同社 マーケティング本部 デジタルメディア マネージャー・岩本崇氏によるデモンストレーションでは、新しい提供形態である「OTC」の内容を紹介。同フォントファイルをダブルクリックすると4つのフォントのインストールパネルが開き、ひとつのフォントファイルの中に、国ごとで分かれたフォントが格納されていることを示した。なお、アプリケーション上で利用する際の日本語フォントの名称(フォントネーム)は「源ノ角ゴシック」と表記されるということだ。
7個の多言語OTCと7個の多言語OFC、そしてそれぞれが個別になった28個の地域別サブセットの総計42フォントが提供される |
OTCのフォントファイルをダブルクリックすると、4つのフォントのインストール画面が開く。1つのフォントファイルの中にそれぞれの国ごとに分かれてフォントが格納されているためだ |
同フォントのデザイン監修およびかなのデザインを担当した同社 日本語タイポグラフィ シニアデザイナー・西塚涼子氏は、同書体のデザインコンセプトについて「スモールデバイスでも読みやすいように、スッキリとしたフォルムを目指した」という。「漢字の形はモダンだが個々のサイズをやや小さめにし、行間に空きが発生することでスモールデバイスでの可読性が上がる」と説明。また「日中韓で同じデザインにするために、パーツを共用。同じ漢字は共用し、少しでも異なれば各国のデザインが優先され自然に見えるようにした」という。かなのデザインについては「かな本来の伝統的なフォルムを少し取り入れ、スモールデバイス上でも違和感なく読めるようにデザインした」という。また、特に縦書きの場合は、自動的に縦用かなに切り替わるという。そして、日本語フォントの制作に協力したイワタ 専務取締役 兼 技術部長の水野昭氏は、「細部に至るまで妥協することなく作ることができた」と挨拶し、品質については折り紙付きだと強調した。
なお、同フォントは、同社のWebフォントサービス「Adobe Typekit」のライブラリをはじめ、SourceForgeやGitHubから無償でダウンロードできる。Adobe Typekitからの入手は、Creative Cloudデスクトップフォントの同期および無料のAdobe ID取得者に限られ、地域別サブセットのOTFのみの配布となっている。このほか、先述の通りGoogleが提供する「Noto Sans CJK」としては、同NotoのWebページからダウンロード可能だ。