理化学研究所(理研)は7月11日、腸内細菌叢と免疫系との間で、制御性T細胞や腸管に存在する抗体「免疫グロブリンA(IgA抗体)」産生を介した双方向制御が行なわれていることを発見したと発表した。
同成果は、理研統合生命医科学研究センター 粘膜免疫研究チームのSidonia Fagarasanチームリーダー、東京大学大学院新領域創成科学研究科 附属オーミクス情報センターの服部正平教授らによるもの。詳細は米国の科学雑誌「Immunity」(7月17日号)に掲載されるほか、7月10日付(米国時間)のオンライン版に先行掲載された。
ヒトの腸管内には500~1000種類、総数100兆個の腸内細菌が棲んでおり、これらが腸管免疫系を適切に制御することで健康が維持される。これまでの研究から、バランスがとれた腸内細菌叢が腸管の免疫系を適切に活性化することで健康を維持できることが報告されているが、具体的に、バランスがとれた腸内細菌叢を形成・維持する上で免疫系がどのように作用しているのか、バランスがとれた腸内細菌叢が免疫系にどのような影響を及ぼしているのかといったことは良く分かっていなかった。
そこで研究グループは今回、免疫系が機能していないさまざまな免疫不全マウスの腸内細菌叢の調査を実施。その結果、どの免疫不全マウスにおいても、正常マウスに比べ腸内細菌叢の多様性が顕著に減少し、その構成も大きく変化していることが判明したほか、T細胞欠損の免疫不全マウスに、制御性T細胞を移入したところ、腸内細菌叢の多様性が増加し、バランスのとれた腸内細菌叢を再構築させることができることも確認したという。
また、腸内細菌叢のバランスが、免疫系に与える影響を調べたところ、すでに腸管内に腸内細菌叢が存在している状態でも、外部からの腸内細菌の投与によって腸内細菌叢の構成および免疫系に影響を与えること、ならびにバランスのとれた腸内細菌叢が制御性T細胞やIgA抗体の産生といった健全な腸管免疫系の形成に有効であることが示されたという。
今回の結果について研究グループは、腸内細菌叢と免疫系との間の双方向制御によって健康が保たれているという新たな概念が示されたとするほか、外部からの腸内細菌の投与で人為的に腸内細菌叢および免疫系を制御できる可能性が示唆されたことから、腸内細菌が影響を及ぼすと考えられるさまざまな疾患の予防や、新規治療法の開発などにつながることが期待できるとコメントしている。