6月21日、都内のイベントホールにて首都圏コンピュータ技術者株式会社(以下、MCEA)主催のパートナーフォーラム「フリーランスと企業」が開催された。イベントでは同社と契約するエンジニアらによるプレゼンテーションや、堀江貴文氏の講演、また同社設立25周年を記念した新たな事業プラットフォームなどの発表が行われた。
MCEAは、個人事業主として働くITエンジニアと契約し、企業からの開発案件をエンジニアと「共同受注」するスタイルで、企業の需要とエンジニアを結び付けるビジネスを行っている。このパートナーフォーラムは、同社登録エンジニアの活動報告や同社からの発表が行われる場として年に1回行われているもの。
エンジニアからの活動報告に先立ち、MCEAの「個人事業主文化祭(https://www.facebook.com/FreelanceBusinessFestival)」実行委員長・石神康秀氏が登壇した。個人事業主文化祭は、個人事業主の自己アピールの場、語り合う場として毎年開催されているもので、「とにかく楽しいことをやる会(石神氏)」。
2012年9月に第1回目が開催されてから、エンジニア20人のプレゼン大会を中心に、屋台が出たり、占い師が登場するなど、真面目に楽しむエンジニアらしい多彩な催しがイベントを盛り上げてきた。この後にプレゼンを行うエンジニアも、過去の個人事業主文化祭で発表を行っている。
今年は6月28日に「フリーランスが今、参加するべき勉強会・ワークショップ(等)大体験会」が行われた。そして11月8日には第3回目となる個人事業主文化祭2014秋が開催される予定だ。石神氏は「スタッフが足りていません。また、来場者にもたくさん来ていただきたい」と会場のエンジニアに参加を呼び掛けた。
エンジニアからのプレゼンテーションの一人目は、クラウド型のTwitter管理サービス「ツイ助。」(http://www.twisuke.com)の開発・運営で知られる尾張孝吏氏。もともと「ツイ助。」は尾張氏がWindows Azureの勉強を目的に開発を始めたもので、現在のユーザー数は約8万7,000に登る。その後、よりビジネス寄りのサービスを目指して開発した「TwittJet」(http://twittjet.com)は、以前の経験を生かして企画からリリースまでをより速く行えたという。だが、その後に尾張氏がチームを率いて取り組んだプロジェクトでは困難な経験が伴った。プレゼンではそれをロールプレイングゲームになぞらえて紹介された。
尾張氏「戦えない状況が続く中、一人で空回りし、チームを動かすことができず申し訳ないと思った。でも、大丈夫。復活できるんです、いくらでも。新たな仲間や残ったメンバーでもう一度開発しています。」
尾張氏「がむしゃらにやること。スピードなんです。冒険は始まったばかりなので、倒せない敵も多いし、苦労すると思うが、目標にむかって進んでいると思う。みなさんもITという武器を使って、冒険に出てみてはいかがでしょうか。」
次に、技術者集団「チームBizLink」を代表して関川あい氏のプレゼンテーション「事業主に必要な力」が行われた。チームBizLinkは、同社のパートナー(契約したエンジニア)有志が集まり、営業から開発・納品・メンテナンスまでを行っている。コアメンバーと言われる数名の技術者が、受注した案件に対して登録メンバーや作業協力者といった人たちに仕事を割り振り、まとめていく形で、個人では受注が難しい大規模な案件にも対応してきた実績がある。
関川氏は、チームBizLinkのコアメンバーとして活動した後に起業した技術者2名に焦点を当て、彼らのインタビューから「事業主に必要な力」を読み解いていった。
関川氏「事業主に必要なのは、コミュニケーション能力、牽引力、行動力。コミュニケーションは意外にテクニックで解決できる面がある。苦手な方は、参考程度にでも書籍などでコーチングについて知ってみるとためになると思う。」
また、フリーランスと事業主との違いとして、ストレス耐性や包容力、事務処理能力などが必要だという点も起業した2名の共通する意見だったという。チームBizLinkのコアメンバーとして、他の人を巻き込んで最後までプロジェクトを行った経験が、起業を後押しする要素になったのではないかとも分析した。
最後に関川氏は、これをまとめる中で感じた事から、技術者としての提案を述べた。
関川氏「思いついたことがあったら、とりあえず行動に移すのが一番。思い通りにいかなければ修正すればいいだけ。もう一つは、いろいろな所に首を突っ込むこと。情報は外に出て、自分で取ってきて役立てるのがいいのではないかと思う。」
エンジニアがイノベーションを起こす
続いて、エンジニアの働き方をテーマに堀江貴文氏の講演が行われた。堀江氏は、会場に集まったMCEAのエンジニアに向けて「世の中の不便なことを便利にしてくのがエンジニアのミッションだと思う。そういう提案はくらでもあると思う」と、様々な事例を挙げながら持論を述べた。
堀江氏「慣れているからといって、そこに安住してはいけない。エンジニアは、もっと違う体験、発明、イノベーションを起こす側の人間じゃありませんか。これだけの人数がいたら、切磋琢磨して、世の中がどんどん便利になっていくはず。それを見てみたい」
とは言っても、例えば確定申告には領収書が必要。それを求めるのは行政。行政を変えるなら法律を変えなくてはならない。エンジニアはそれにどう向き合えばよいのだろうか。堀江氏は、技術が世の中を変えて行く時代が来ると言う。
堀江氏「例えば、Googleが自動運転のクルマを作れば自治体が法律を変えて公道走行を認める。技術が様々なものを変えていく。それによってルールや法律も変わっていく。大きな技術の波をつくれば行政が変わるし、変わらざるを得ないということ。そちらから変えて行ったほうが早いと思う」
また、現在普及しているスマートフォンの中身は、元を辿ればUNIXやLinuxという流れがあり、「それが今スマートフォンとしてぼくらの手のひらにある。開発者としてはすごい環境」と、エンジニアにとってスマートフォンアプリの可能性が非常に大きいものであることを強調した。
堀江氏「皆さんは普通の人が超えられない壁を越えている。それはプログラミングすること。壁を越えていることは大きなチャンスなので、どんどん新しいアプリを出して、世界を変えて欲しい」
エンジニアの新たな働き方を提案する「PE-BANK」事業
最後に、MCEA代表取締役 齋藤光仁氏が「創立25周年によせて」と題し、記念ムービーや新ロゴデザインの発表、および同社の新たな事業について発表を行った。
IPAの調査によると、IT人材の不足を感じている企業は全体の91.3%に達しているという。ここで注目されるのが、企業に属さず個人事業主として仕事を行っているITエンジニアの存在だ。しかし、現場によっては個人事業主を受け入れていなかったり、仕事をしていると営業や事務作業ができないといった実務面の課題があり、能力を活用する妨げとなっている。そこでMCEAでは、これらの課題を解決すべく「IT技術者ブランド化プラットフォーム事業」を立ち上げる。
齋藤氏「MCEAは25年間ずっとIT個人事業主と付き合ってきた。共同受注を行う点では、この国では老舗。その経験を生かして、提案したいと思っている」
新事業は名称を「PE-BANK(プロエンジニアバンク)」とし、9月1日より提供されることが発表された。IT個人事業主と企業(システム開発現場)とを繋ぐプラットフォームとなるもので、IT個人事業主は「プロエンジニア」としてMCEAと契約し、開発案件を持つ企業はMCEAからプロエンジニアの「出前」を受ける。両者の間に立つMCEAにとって、事業のブランド化と品質保証を行う事が、課題となっているIT個人事業主の社会的地位向上、および企業のIT人材不足解消へのソリューションとなる。
齋藤氏「高度な技術をお持ちの方は、プロエンジニアとして我々と契約し、この国の様々なシステム開発に携わっていってほしい。これからITの個人事業主はどんどん増えてくると思う。MCEAはみなさんの活躍する場として、ひとりの技術者としての働き方を提案したい」
MCEAは、25年前の平成元年に「首都圏コンピュータ技術者協同組合」として設立されて以降、開発案件の共同受注や経理等の事務代行でIT個人事業主をサポートしてきた実績がある。齋藤氏はこの伝統を守りつつ、ブランド化と品質保証で信頼を得ることがプラットフォームとしての要になると述べ、講演を締めくくった。