花の命ははかない。アサガオは朝に咲いて午後にしおれるが、夜まで咲き続けるアサガオができた。アサガオの花びらの老化を促す新しい遺伝子を、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)花き研究所(茨城県つくば市)の渋谷健市(しぶや けんいち)主任研究員らが見つけた。この遺伝子の働きを抑える組み換え体を作ると、花びらの老化が遅れて、24時間も咲いていることを確かめた。花の日持ちを延ばす新技術につながる成果といえる。鹿児島大学との共同研究で、7月2日の英科学誌プラントジャーナルのオンライン版に発表した。
切り花は日持ちの良さが強く求められる。カーネーションやスイートピーなどは、エチレンという植物ホルモンの働きで老化が進行するため、エチレンを阻害する薬剤の処理で日持ちを長くして花屋に流通している。しかし、ユリやチューリップ、ダリア、アサガオなどの花は、エチレンの働きを阻害しても、日持ちが良くならない。エチレン以外の花の寿命を決める仕組みがあるとみられていた。
写真2. 開花して24時間後のエフェメラル1遺伝子発現抑制組換え体の花。組み換え体では、栽培室内で24時間、花がしおれずに咲いているため、前日に咲いた花(赤色)と当日に咲いた花(紫色)が同時に観察できる。実験に用いたアサガオの品種「紫」の花は、開花後の時間がたつにつれて、赤色に変化する。(提供:農研機構花き研究所) |
花き研究所の研究グループは、代表的な短命の花のアサガオ品種「紫」で、花びらの老化を促す遺伝子を探した。その結果、花びらの細胞死に関与する遺伝子を見つけ、英語の「はかない」という意味で、エフェメラル1と名づけた。時間の経過とともに発現量が変化して、花びらの老化を調節している遺伝子がわかったのは初めてで、植物学的にも重要な発見となった。
この遺伝子の発現を抑えた組み換え体のアサガオでは、花がしおれ始めるまでの時間が2倍に延びた。栽培室内では、夜を過ぎて翌朝まで赤色になって咲いており、当日の朝に咲いた紫色の花と同時に鑑賞することができた。
研究グループの渋谷健市主任研究員は「この組み換え体のアサガオを新品種にして商品化するのはハードルが高くて、難しいが、エフェメラル遺伝子の働きを抑える薬剤が見つかれば、花の日持ちを延ばすことはできる。同じ仕組みが、アサガオだけでなく、ほかの花に効く可能性はある。1日で枯れるハイビスカスを切り花として流通させるのも夢ではない」と話している。