横浜市立大学(横市大)は7月2日、新生仔マウスの精巣組織を凍結保存し、解凍後に器官培養することによって精子形成を誘導させ、精子産生に成功したほか、同精子を用いて産仔を得ることにも成功したと発表した。

同成果は、同大大学院生命医科学研究科の小川毅彦 教授、同 医学研究科泌尿器病態学の窪田吉信 教授(現 学長)と大学院生の横西哲広 医師、理化学研究所バイオリソースセンター 遺伝工学基盤技術室・小倉淳郎室長、国立成育医療研究センター 周産期病態研究部の秦健一郎氏らによるもの。詳細は英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

抗がん剤やがんに対する放射線療法の合併症の1つとして不妊症があるが、近年、射出精子が回収できる思春期前後の男性であれば、治療前に精液を冷凍保存することで、数十年以上の期間を経ても、冷凍していない精子を用いた場合と同等の受精率、着床率、出生率を顕微授精で得ることができるようになってきた。しかし、性未成熟な若年男性がん患児では、そうした応用はできず、治療技術の発達により、晩期合併症としての不妊症に悩むがん治療経験者の数が増加するといった課題があった。

今回研究グループは、細胞凍結保存に用いられている一般的な方法である緩慢凍結保存法 と、卵の凍結法として確立しているガラス化凍結保存法を用い、新生仔マウスの精巣組織を凍結した後に解凍し、培養を実施。いずれの方法でも精子細胞ならびに精子を得ることに成功したという。

また、凍結精巣組織からの精子回収効率は、凍結保存を行っていない場合と同程度であり、こうして産生された精子細胞および精子を用いて顕微授精を行った結果、健常な産仔を得ることに成功し、それら仔マウスたちも正常に成長し、成熟後に自然に交配して孫世代が得られることを確認したという。

なお研究グループは今回の結果について、実験動物であるマウスを用いたものだが、将来ヒト精巣組織の培養法が完成し、培養下で精子産生が可能となれば医学応用が現実的なものになると考えられると説明している。

今回の実験方法の概略

凍結精巣組織の培養下で分化した精子由来マウスと、その仔マウスたち