東京大学(東大)は7月2日、両手動作中に反対側の手の動作に応じて柔軟に運動を調節する能力は、右利きの人では、非利き手である左手の方が右手よりも優れていることを確認したと発表した。

同成果は、同大大学院教育学研究科の平島雅也 助教、同 野崎大地 教授、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(日本学術振興会 海外特別研究員)の横井惇氏らによるもの。詳細は「The Journal of Neuroscience 」に掲載された。

利き手が非利き手よりも優れた運動能力を発揮するということ、良く知られているが、例えば、右利きの人が両手を協調させる便のふたを開けるといった作業する際に、右手が主要な役割を担い左手がそれをサポートするという役割分担が、左右の手の優劣を反映した結果なのか、それとも左右の手それぞれの特化した能力を反映した結果なのかは、よくわかっていなかった。

そこで研究グループは今回、両手で運動学習研究などに用いられる「マニピュランダム」と呼ばれる装置を使って、被験者に両手それぞれの位置に対応して画面に表示される2つのカーソルを別々の標的に命中させる課題を行ってもらい、左右どちらかの腕にマニピュランダムを通して特殊な外乱負荷を与えることで、両腕を動かす学習効果における、反対側の腕運動の影響を調べたという。

具体的には、右利きの被験者を、両腕を同時に前方に動かしながら、右腕で負荷を学習するグループと、左腕で学習するグループに分けて実験を行ったところ、負荷に対する学習能力自体は、左右の腕で同程度であったが、負荷を学習した腕の運動は前方方向に保ったまま、反対側の腕の運動方向を学習時に用いた方向(前方方向)から変化させると、それに応じて発揮される運動学習効果が徐々に減衰し、その程度は左腕で負荷を学習したグループの方が大きいことが示された。これは、右腕の学習効果は左腕の運動にあまり干渉されないのに対し、左腕の学習効果は右腕の運動から強く干渉を受けていることを示すもので、両腕運動中、左右の腕それぞれの運動調節の仕方を学習するプロセスは反対側の腕の運動から影響(干渉)を受けること、また、その干渉の度合いには左右差(左腕→右腕<左腕←右腕)が存在することが示唆された。

また、この結果を受けて研究グループは「両腕を動かす場合は、右腕が運動Aを行っている時に左腕が学習した効果は、右腕が運動Bを行っている時には必ずしも必要ない(逆にマイナスに作用する可能性もある)」と予測し、一方の腕の運動に応じてもう一方の腕が受ける負荷が変化する環境を実験的に作り出し、その環境へ適応する様子を調べたところ、右利きの被験者を、左腕で負荷を学習するグループと右腕で負荷を学習するグループに分けた場合、左腕のグループは右腕のグループと比べて、学習がより迅速に進み、同じ量の練習でも最終的な学習量が2倍に達することが確認されたという。

さらに、運動学習のプロセスが反対則の腕運動から受ける影響に左右差が存在することを仮定した数理モデルによるシミュレーションを行ったところ、上述の実験結果を良く再現できたが、左利きの被験者を対象として同じ実験を行ったところ、左腕の優位性は消え去り、むしろ右腕が優位であるという逆の傾向が観察されたという。

今回の結果について研究グループでは、利き手と非利き手は単純な優劣関係ではないとする説を支持するものであり、両腕の協調動作において左右の役割分担が生じるメカニズムの理解や、左右差および大脳半球間の相互作用の機能的意義の理解、両手動作を用いたより効果的なリハビリテーション手法、運動スキルの獲得手法の開発などにつながることが期待されるとしている。

Aは実験の模式図。マニピュランダムのハンドルの位置が手の上に設置されたスクリーンに投影される(被験者から腕は見えない)。被験者は左右のカーソルをそれぞれ同時に開始点から標的まで移動させる運動を行った。Bは外乱負荷の学習の模式図。外乱を受けると手の軌道が力の方向に曲げられてしまうが、学習が進むにつれて徐々に手は元のまっすぐな軌道を描くようになる