ネットワンパートナーズは2014年6月12日、千葉・幕張メッセで開催されたInterop Tokyo 2014の展示会場内で、「無線LANが主役!! ~パラダイムシフトを感じ取ろう~」と題した無料のセミナーを開催した。本稿では、立ち見が出るほどの盛況となったネットワンパートナーズ ソリューション事業部 技術部 第1チーム リーダー 阿部雅昭氏の講演内容をお伝えしよう。
無線LANインフラに対する注目度の高さが顕在化したセミナー会場
私たちのビジネスや生活にとって、無線LANはもはや日常生活に不可欠なインフラの1つとなっている。同セミナーに登壇した阿部氏は冒頭で、2016年には1人あたり6.5台の無線LANデバイスを所有するという市場予測があることを紹介し、ネットワークインフラのパラダイムシフトが起きつつあることを示唆した。
阿部氏は、講演の最初にEthernetの歴史を振り返った。
Ethernetは、後にスリーコムを創業するロバート・メトカーフ博士が1973年に動作原理を考案した技術であり、1980年に10Mbpsの「IEEE 802.3」として標準化された。以後15年間、通信速度の向上は見られなかったが、1995年にはよく目にするUTPケーブルが開発された。その後、100BASE-x(802.3u、1997年)、1000BASE-x(802.3z、1999)、10GBASE-x(802.3ae、2002年)、100GBASE-x(802.3ba、2010年)という順で規格が登場し、30年ほどで通信速度は1万倍にも拡張された。
「歴史上には、FDDIやATMのように、ライバルとなるネットワークインフラも登場しましたが、シンプルで使いやすく、安価なEthernetが常に選ばれてきました。しかしスマートフォンやタブレットの普及によって、無線LANが初めてEthernetに黒星を付けたと感じています。この黒星は、今後の将来を語るにおいて、非常に重要な黒星だと考えています」(阿部氏)
無線LANの最初の規格は、1997年にIEEE 802.11として登場した。当初の通信速度は、わずか2Mbpsであった。その後、1999年には11Mbpsの802.11bと54Mbpsの802.11a、2003年には11bの上位互換となる802.11g、iPhoneが登場した翌年の2009年には802.11nが発表され、規格最大値は600Mbpsに達した。
2013年に登場した802.11acは、現在最もホットな無線LAN技術であり、とうとう1Gbpsの通信速度を突破した。2015年に標準化予定の11ac WAVE2では、6,933.3Mbpsに達する予定だ。
802.11acの5つの技術ポイント
阿部氏の解説によれば、IEEE 802.11acには次のような5つの技術ポイントがある。このうち1~4については、IEEE 802.11nに実装されていた技術を拡張したもので、5が新たに実装された技術である。
- チャネルボンディングの拡張
- 空間多重(MIMO)の拡張
- 変調方式(QAM)の拡張
- フレームアグリゲーションの拡張
- DL-MU-MIMO技術
チャネルボンディングは、複数のチャネルを同時に利用して通信速度を向上する技術である。11nで40MHzのみ可能であったものが、80MHz・160MHzも可能となった。ただし、国内では気象レーダーなどに使われる帯域と干渉するため、160MHzは実質的には使用するのは難しいとされている。
MIMO(multiple-input and multiple-output)は、複数のアンテナでデータを送受信することで、帯域を広げる技術である。11nでは最大4ストリームまでであったものが、11acでは8ストリームまで拡張することが可能だ。
QAMについては、11nで使われていた64QAM(6ビット/サブキャリア)から、256QAM(8ビット/サブキャリア)に拡張された。これにより、およそ1.33倍の速度向上が見込めるという。
フレームアグリゲーションは、送信データを複数個連結することにより、転送効率を上げる技術である。それぞれ最高の規定を想定した場合、11nではMAC効率81%であったものが、11acでは84.4%まで向上するという。
11acで新たに実装されたDL-MU-MIMO(Downlink-Multi-user MIMO)は、複数のアンテナを活用して、複数の端末に対してダウンリンク方向の通信を可能とする技術だ。
従来の無線LANの場合、ダウンリンクであっても、アクセスポイントが一度に通信を行えるデバイスは1台限りであった。あるデバイスへの送付が完了したら、次のデバイスへ送付する。これを短時間で繰り返すことにより、あたかも常に通信しているように見せかけることができていたというわけだ。
DL-MU-MIMOでは、アクセスポイントに搭載された複数のアンテナから、最大4台のデバイスへ同時にデータを送信できる。今後ビジネスでも主流となっていくスマートフォンやタブレットは1ストリーム製品が多いため、単体ではMIMOの恩恵を受けることができない。しかしDL-MU-MIMOであれば、ネットワーク全体としての通信効率を大幅に向上することが可能だ。
802.11ac製品選定のポイント
「802.11acはオプションとなっている機能が多いため、製品選定の際には、どのような技術を実装しているのか、しっかり確認することが肝要です」(阿部氏)
ネットワンパートナーズが取り扱っているラッカスワイヤレスジャパン(以下、ラッカス)の802.11acアクセスポイント「R700」は、他社製品と比べていくつかの優位点がある。
まず1つは、5GHz(11a/n)の5GHz(11ac)の3ストリームMIMOに加え、2.4GHzでも450Mbpsの3ストリームMIMOを実現していることにある。80MHzのチャネルボンディングと256QAMの利点を組み合わせれば、450Mbpsが1,299Mbpsまで高速化するという計算となる。
ラッカス製品の最大のポイントは、ダイナミックビームフォーミング技術とスマートアンテナを組み合わせた特許技術の「BeamFlex」である。端末の位置に合わせて、パケット単位で電波に指向性を持たせるもので、電波干渉を最小限に抑えることが可能だ。DL-MU-MIMOでは、デバイスは複数の電波から自分宛てのもののみを分類して受け取る必要があるが、BeamFlexを用いることで、より効率よくデータを受け取ることが可能になる。
無線LANデバイスの急増に対応する802.11ax
ABI Researchの調査によれば、2014年には世界中で25億台、1日に650万台もの新しい無線LANデバイスが出荷されるという。2017年には、1年間で35億ものデバイスが出荷されるようになるとのことだ。
「モノを買えば無線LANチップが搭載されているという時代は、すぐそこまで来ています。しかしそうなると、無線LANアクセスポイントやデバイスの設置密度が高まり、電波干渉の問題が大きくなってしまいます。そこで次世代の無線LAN規格であるIEEE 802.11axでは、高密度環境でスループットを改善する技術や複数のアクセスポイントから同時にデータを送信する技術などが検討されています」(阿部氏)
現在の予定では、802.11axのドラフトが2016年7月に登場し、2019年5月に標準化が完了する見込みである。
「2020年の東京オリンピックのときには、11axが普及し、今以上にいつでもどこでも快適に利用できる無線LAN環境が整っていることでしょう」(阿部氏)