商業印刷、美術印刷、ラベル・シール印刷、特殊印刷、出版印刷など各種印刷を手がける東京リスマチック株式会社は、2013年12月に、「Acrobat XI Pro」(以下Acrobat)と「Adobe Creative Cloud」(以下CC)との包括ライセンス契約を締結。社内で必需品であるAdobe製品の調達コストの削減と、ライセンス管理の簡易化に成功するとともに、Acrobatがグループ企業含む全社へ導入された。
今回は、Acrobat導入を担当した、取締役 カスタマー本部長 根岸大蔵氏、カスタマー本部 総務担当 福田敏行氏に話を伺った。
出力業界の先端を行く東京リスマチック Acrobatと最新のCreative系ソフトが必須
東京リスマチックは、24時間営業店を都内に12店舗持つ印刷事業を中心とする会社だ。DTPのサービスビューローとして、発売日にAdobe社のCreative製品に即日対応するなど、Adobeユーザーには馴染み深いのではないだろうか。同社は1972年の創業以来、お客様本位のサービスを手がけており、顧客層は印刷・クリエイティブ業界に留まらず多岐に渡るという。
近年は、マルチメディア・マルチデバイスに対応したクリエイティブサービスの提供にも力を入れており、時代の最先端である3Dプリンタ出力も行っている。出力データのないユーザー向けには、専用のスタジオで「瞬撮ご来社スキャンサービス」も行っており、自身の立体フィギュアの制作も可能だ。同社は、デジタルクリエイティブサービスを、東京リスマチックを中心に10社のグループ会社が一体となって提供しており、グループ全体で1,000名を超える事業規模となっている。
Acrobat全社導入前の状況と課題 調達コストの削減とライセンス管理の簡易化
出力部門
東京リスマチックは、出力サービスを主たる業務としている。お客様からのデータ入稿後は、PDFによる独自のワークフローを構築している。「印刷の現場ではAcrobatでないと、文字化け、文字組の崩れ、絵柄のズレなどトラブルの原因となります。出力にはAcrobatが必須なのです」と福田氏は語る。
また、お客様の入稿データを確実に出力できるように、過去のOSを搭載したマシン環境を整え、各OSに対応するAdobe社の各種Creative系ソフトを揃えている。新バージョンのリリース時には、数百という単位で導入するため、新製品のインストール作業も大変だったという。
しかしながら、CCではオンライン上でいつでも最新版が入手できるサービスとなっているので、既に導入済みである同社では、スムースな導入が可能となっている。また、サブスクリプションには期間契約という別のメリットもある。契約期間中であれば、従来のバージョンアップのようなアプリケーションの大幅な機能強化があった場合、バージョンアップ費用を計算して社内稟議をあげなくても良く、コストと手間が削減できることは大きなポイントである。
印刷部門の制作・営業では、AcrobatとCreative系ソフトは必須のソフトウェアであった。
営業部門
現在、同社が力を入れているデジタルクリエイティブサービス部門では、営業担当者が企画提案を行っており、提案書の作成はPowerPointなどのOffice製品からPDFを書き出して作成している。
「お客様への提案書には、当社が今まで蓄積したナレッジが含まれています。それらを編集できないように保護し、機密性の高いファイルでやりとりしたかった。お客様の閲覧環境も、PCだけでなくタブレットやスマートフォンなどマルチデバイス化しています。想定される閲覧環境では、PDFが安全かつ最適であると認識しています。その際、PDFは信頼性が高く安心して使えるものでなければなりません。そのためには、Acrobatが必要でした」と根岸氏はAcrobatの必要性を語った。
これまでも、Acrobatは使われていたが、バラバラに導入されており、バージョンも異なっている状況だった。「以前は、資料の作成といえば、限られたクラスの社員が作ることが多かったのですが、現在は、ほぼすべての営業担当が資料を作成し、お客様に提供することが求められています。質の高い顧客提案を迅速に行うためには、すべてのPCにAcrobatが必要です」と福田氏がいうように、Acrobatの社内ニーズも高くなっていた。
システム導入部門
ソフトウェアの導入や管理面の課題もあった。東京リスマチックは、事業の成長戦略の中でM&Aが行われることもあり、人と場所の移動も多いという。そのため、社員の業務環境をスピーディに構築することは大きな課題であった。また、グループ全体でのソフトウェアラインセンスの管理を円滑に行うこと、使用するソフトウェアの調達コストを削減することも大きな課題だったという。
Acrobatの導入背景と課題解決 -最大の決め手は包括ライセンス契約-
Acrobat全社導入の最大の決め手となったのは、AcrobatとCCの両方をカバーする包括ライセンス契約だった。導入が必須のCCに、Acrobatも合わせて導入することで、それぞれを個別で購入するのに比べて、大幅にコストを削減できる。これこそがAdobe製品の包括ライセンス契約による導入のポイントといえよう。
「CCにしてもAcrobatにしても、使うことが必須となっているソフトウェアであるため、いかに導入コストを抑えられるかが、企業にとってはとても重要なことなのです」と福田氏は語る。
同社においては、PCを使用用途によって事務系と生産系に分けている。今回の包括ライセンス契約は、生産系PCにおいてCCを数百ライセンス、事務系PCにおいてもAcrobatを数百ライセンスという、かなり大規模な契約であった。CCにはAcrobatの使用権も含まれているので、生産系、事務系のどちらでもAcrobatは利用できるため、全社導入になったのだ。
この包括ライセンス契約は、タイミングが重要なものであった。最新版のCC導入は、同社においては既定路線だったが、Acrobatの導入についてはCCとは別に行うこともできた。しかし、今回、CCリリース後の早いタイミングでAcrobatとまとめて導入した。ソフトウェア調達コスト削減という大きな課題をクリアするためには、必要な判断だった。
包括ライセンス契約によるメリット
包括ライセンス契約による最大のメリットは、導入コストの削減であるが、それ以外にもメリットをもたらしているという。
Acrobatを全社導入したことで、マルチデバイス環境でも安全・確実に情報を共有できる環境が整った。さらに、各営業が迅速に提案書を作成できるようになったので、顧客提案力向上にもつながっている。
管理・運用面からも、全社員が同じバージョン、同じソフトを利用することになったので、ソフトウェアのインストールなど管理面も楽になったという。資産管理ツールと併用することで、数百単位のライセンス管理も効率的に行えるようになり、目に見えない運用コストも削減されている。また、使い方の統制が行えることも、全社導入の大きなメリットだろう。
東京リスマチックでは、これまでもAdobe製品最新版リリースと同時に出力対応をしてきたが、それ以外にも「出力や制作の現場では、Illustratorの埋め込み画像データの書き出しや、各ソフトの64ビット化による高速化など、最新バージョンの新しい機能によって生産性が向上しています」と福田氏はいう。
また、「CCにより、お客様と弊社の入稿データのバージョン差異がなくなることを将来的に期待しています」と根岸氏はいう。バージョンが同じであれば、データの確認業務が簡便化されるだけでなく、出力時のトラブルも少なくなることも期待される。
今後の取り組み - 部門ごとのニーズに合わせた利用方法と、承認フローにも注目
Acrobatの全社導入により、ソフトウェアの標準化は前進したわけだが、より一層の個人の業務効率向上を考えると、使い方を標準化することの必要性が顕在化してきたという。
「これまでは、Acrobatの使い方に関しては、各部門やグループ会社ごとに委ねられている部分が多かった。AcrobatはPDFの作成・閲覧以外にも、編集機能なども搭載されているので、各部門や会社ごとで最適な使い方を把握した上で再定義をし、効率のよい運用を行っていくことがこれからの課題です」と根岸氏は語る。
この件に関しては、PDF作業の自動化を可能とするAcrobat XI Proの「アクションウィザード」が有効なソリューションとなるだろう。ヘッダーやフッターの追加、暗号化など、実に幅広いPDFの操作をアクションとして記録し、共有できる。一定の質を維持したまま、誰でも使えるようになるのだ。
さらに、PDFの利活用として「拠点が多く煩雑になっている社内業務の承認フローにおいても、前向きに検討していきたい」と根岸氏はいう。これも、Acrobatの電子署名機能を使えば、承認フロー業務をPDFベースに行うことができると考えている。
東京リスマチックはお客様の利便性を最重要視している。顧客サービスの品質を高めながら、社内の業務効率の向上を進めるために、Acrobat Proの活用は欠かせないものとなっていくだろう。