さまざまなソフトウェア・ツールを駆使して大規模な回路を効率良く設計できるロジック設計に対して、アナログ設計は決め手となるような定番ツールが少なく、手作業での設計を強いられることも多かった。その中で、テキサス・インスツルメンツ(TI)の「WEBENCHオンライン設計支援ツール」は、1999年に登場して以来、アナログ設計のための使いやすく実用的なツールとして多くの設計者に親しまれてきた。
最初は電源設計の支援ツールとして登場したが、その後さまざまなツールの追加や機能拡張が進められ、現在では表1に示すようにアナログ設計を幅広く支援する充実したツール群となっている。また、2011年にTIとナショナル セミコンダクターが統合したことによって対応部品が大幅に増加し、実用性がさらに向上している。
Processor Power Architect | プロセッサ用複数負荷電源回路 |
FPGA Power Architect | FPGA用複数負荷電源回路 |
Power Architect | 複数負荷電源回路 |
LED Architect | LEDライティング用複数負荷電源回路 |
System Power Architect | システム用複数負荷電源回路 |
PMU Power Architect | PMU複数負荷電源回路 |
WEBENCH Export | 設計データのエクスポート・ツール |
Schematic Editor | 設計回路の編集ツール |
Power Designer | 単一出力電源回路 |
Power Designer Parts Listing | WEBENCH Power Designer対応製品一覧 |
LED Designer | LEDライティング用単一出力電源回路 |
Inductive Sensing Designer | 誘導型近接センサ回路 |
Sensor Designer | センサ回路 |
Active Filter Designer | アクティブ・フィルタ回路 |
Filter Designer | フィルタ回路 |
Amplifier Designer | アンプ回路 |
EasyPLL | PLL回路 |
Clock Architect | クロック・ツリー |
表1 WEBENCHオンライン設計支援ツールの一覧。ますますツールが充実し、対応製品も大幅に増加している |
WEBENCHオンライン設計支援ツールは多くのツール群から構成されているが、基本的な思想や操作方法が共通化されており、複数のツールが強力に結合されて全体として実に使いやすいツールシステムになっている。また、ツールのインストールやライセンス認証は不要で、インターネット接続環境とWebブラウザ(およびAdobe Flash)があれば、どこからでも利用できる。以下に、その特長を紹介しよう。
WEBENCHオンライン設計支援ツールの特長
WEBENCHオンライン設計支援ツールの最大の特長は、最適な回路構成や部品を簡単に選択できる直感的でビジュアルな操作性と、それを支える充実した部品ライブラリだ。部品ライブラリはTIの豊富なアナログICに加えて、120社以上のメーカーが提供する40000点以上の部品をサポートし、常に最新の状態にアップデートされている。アナログ設計の経験が少ない設計者でも、専門家と同じように最適化したアナログ回路を簡単に設計することが可能だ。
WEBENCHオンライン設計支援ツールでは、基本的には3ステップで設計を進めることができる。まず、TIのWebサイトのトップページにある「WEBENCH Designer」のスタート画面で「電源」タブを選択し、設計したい回路の仕様を入力する(図1)。その後は、回路構成や最適部品を簡単に選択できる「WEBENCH Visualizerインタフェース」(図2)や、設計において最も重視したいポイント(例えば部品コスト、基板占有面積、効率)を選んで、さらに高度な最適化を可能にするWEBENCHオプティマイザ・ダイヤル(図2~3)を用いて最適化を進める。さらに、強力なオンライン・シミュレータ(図4)を用いて、設計結果を迅速に検証する。
設計結果はレポートとして出力したり、オンラインで他の設計者と共有したりできる。また、部品や「Build It!」キットのオンライン発注、基板CAD用設計データのエクスポートなど、試作や少量生産に必要な作業もすべてワンストップで行うことが可能だ。
図3 WEBENCH Power Designerのメイン画面 |
図4 WEBENCHのオンラインシミュレータ。電気特性シミュレーションの画面。ボード線図、入力安定性、負荷安定性、定常状態、スタートアップなどのシミュレーションが可能。この他に熱特性シミュレータもある |
進化し続けるWEBENCHオンライン設計支援ツール
WEBENCHオンライン設計支援ツールは常に成長を続けているが、最近、機能や対応製品がますます充実してきている。
まず機能の面では、「WEBENCH Schematic Editor」の導入により、設計した回路を編集できる機能が追加された。これは設計した電源回路に部品を追加してカスタマイズできる機能で、さらにカスタマイズ後の回路をシミュレーションで検証できる。
また、基板CAD用の設計データを「Altium Designer」、「Cadence OrCAD」、「Allegro」、「CadSoft Eagle」、「Mentor Graphics PADS」、「DesignSpark PCB」などのCAD開発プラットフォームにダウンロードできる「WEBENCH PCB Export」が追加された。これによって適切なPCBレイアウト設計を即座に行うことができる。
新ツールとしては、まず、アクティブ・フィルタの設計に向けた「WEBENCH Filter Designer」が追加された。これは、ADコンバータのプレフィルタ、DAコンバータのポスト・フィルタなどに必要とされるアクティブ・フィルタを容易に設計できるツールだ。手作業では難しいフィルタの定数計算を自動的に行い、最適な部品を選択して回路を設計できる。
またクロック・ツリーの設計に向けた「WEBENCH Clock Architect」が追加された。複数のクロックを必要とするシステムでも、必要なクロック周波数を入力すれば、それを実現するクロック・ツリー構成を容易に設計できる。
さらに、WEBENCH Designerを運用するサーバ・インフラも改善が進められており、シミュレーション機能を利用した際の処理時間が最大で50%高速化された。
WEBENCHオンライン設計支援ツールの利用方法や最新情報は、TIのWebサイトにあるWEBENCH デザイン・センターでトータルにサポートされている。日本語のヘルプや動画(日本語字幕付き)も豊富に用意されており、初めてでも安心して利用できる(図5)。