岡山大学は6月26日、8個のベンゼン環がジグザグに繋がったフェナセンと呼ばれる分子の効率的な合成法を開発したと発表した。

同成果は、同大大学院 自然科学研究科(理)の岡本秀毅准教授、久保園芳博教授、ナード研究所の郷田慎氏らによるもの。詳細は、Nature Publishing Groupの「Scientific Reports」に掲載された。

今回、8個のベンゼン環が連なるフェナセンを、光化学反応(Mallory光環化反応)をキーステップとして簡単に合成することに成功した。それにより、π電子系を拡張したフェナセンのOFETを作製するのに必要な量の試料を得ることができ、トランジスタ特性の評価が可能になった。フェナセンを、酸化シリコン薄膜上に蒸着して作製したOFETデバイスは、1.74cm2V-1s-1の電界効果移動度を実現し(平均移動度は1.2cm2V-1s-1)、アモルファスシリコンと同等の性能が実現された。また、イオン液体をゲートキャパシタとして用いる電気二重層トランジスタデバイス(EDL FET)では、有機薄膜トランジスタとしては極めて高い電界効果移動度となる平均8cm2V-1s-1を達成するとともに、低電圧駆動を実現し、巨大π電子拡張系フェナセンの電子材料としての有望性を見い出したという。

また、この分子は、空気中で極めて安定で、従来用いられてきたペンタセンなどのアセン型分子より、有機エレクトロニクス材料として有望である。そして、ベンゼン環を拡張したπ電子系のトランジスタ特性が良好であることがわかったので、さらに大きなベンゼン拡張系分子を使ったトランジスタに期待がもたれる。一方、これまで、ベンゼン環を多数繋いだ分子を作製することは難しかったが、今回の方法によって簡単に拡張分子を作製できたことは、これまで研究がなされてこなかった"ベンゼンが多数繋がった拡張π電子系分子"のトランジスタ特性を研究することの道を切り開いたと言える。今後、この合成手法は、さらに大きな拡張π電子系フェナセン分子の構築をサポートし、フェナセンの化学と物性の研究に寄与することが考えられるとコメントしている。

Mallory光環化反応で合成されたフェナセン