6月15日~18日の日程で行なわれた米PTCのカンファレンス「PTC Live Global」。17日には、PTC Creo 3.0のキーノートセッションが行なわれ、トヨタなど顧客3社がPTC Creoの採用事例を紹介した。本稿では、同セッションの模様をお伝えする。

今回発表されたPTC Creo 3.0では、大きく分けて3つの特色がある。

他社データも取り扱える「Unite Technology」

Unite Technologyとは、既存のCADデータを変換することなく、そのまま手を加えられる技術で、多額のコストをかけることなく、データの移行ができる。

既存データに手を加えた部分のみPTC Creoのファイルデータに変換できるほか、個別部品を変更する際にアセンブリ全体の変換が必要ない。また、必要に応じて既存の部品データが変換できる機能も搭載している。

この新機能では、ダッソーシステムズのSolidWorksやCATIA、シーメンスのNXで保存されたCADファイルを直接PTC Creoで編集、保存できるため、サードパーティ製のソフトウェアを別途用意する必要がない。また、前者3製品とSolid Edge、Autodesk InventorのファイルをPTC Creoにインポートする機能も提供されている。

PTCでは、こうした機能の提供により、開発部門と協力会社、サプライヤー、顧客とのデータのやり取りが迅速かつ簡単にできるため、製品開発スピードや品質の向上が期待できるとしている。

アイディアを具現化する「Empowering Innovation」

続く2点目では、構想力やアイディアを実現するための機能拡張が挙げられている。PTC Creo ParametricのFreestyleデザインによって、有機的な形状を容易に作成できるだけではなく、パラメトリックの設計意図を組み合わせたデータの作成が可能になった。これにより、デザイナーが自由な形状のデザインをパラメトリック上に作成できる。

ほかにも、Creo Layoutの拡張性と機能の強化によって、構想設計の2Dデータを3Dパラメトリック環境にそのままの形で再利用できるようになり、2D、3D間における設計変更の反映と確認が容易になっている。

また、3Dダイレクトモデリングアプリケーション(PTC Creo Direct)を機能強化。PTC Creo Parametricで全て再利用できる構想設計データを素早く作成可能になった。

それ以外にも新たに、「PTC Creo Design Exploration Extension」を提供。PTC Creo Parametric上で動作し、複数のデザインを作成、検討できると同時に、モデリングアプローチなども検討できるため、設計変更の影響を安全に把握可能となった。

細部の機能改善を図る「Core Productivity」

ほかにもCreoの細やかな機能改善が図られている。PCのグラフィック性能の向上から、より詳細なモデリングが可能になったほか、豊富な部品ライブラリとファスナー組み付けフローの自動化が行なわれている。フレキシブルモデリングの新機能や解析周りの新機能、拡張機能も用意しているだけではなく、PTC Creoを初めて利用するユーザー向けにヘルプシステムを組み込んでいる。

トヨタら3社がCreo 3.0に期待

17日に行なわれたキーノートセッションでは米国で軍事製品を取り扱うRaytheon社や日本のトヨタ自動車、米DAKTRONICS社の代表者が登場。PTC Creoの利用シーンとCreo 3.0に対する期待を語った。

Raytheon社では、約3万人のCreoユーザーがおり、654のプログラムが進行、800万のモデル、700万以上の部品を管理している。これらの膨大な部品管理を行なう上で重要なこととして「エンジニアがエンジニアリングに集中できる環境を整える必要がある」と同社Enterprise PDM DirectorのDavid B. Slader氏は説明。設計から製造、サポートまで一貫した管理ができる重要性を説いた。

「一つの環境で全てのコラボを実現する必要がある」と話すSlader氏は、Creoを全面導入していることを明かした。「Global OneでPLMシステムを組むことで何百億というコスト削減に繋がった。シングルソリューションにすることは重要だと考えている」(Slader氏)

続いて登壇したのは、日本のトヨタ自動車。登壇した同社 ユニットセンター エンジン統括部 企画総括室で主査を務める清水 弘一氏は、トヨタ自動車の米国における歴史を説明。1957年から北米で販売をしてきたことを紹介した上で、PTC製品の導入から10年以上が経過していることを明かした。

現在は27のエンジンシリーズが存在しており、いずれもPTC Creoによって設計されていることを説明した。LayoutやMathcadといった2D設計を活用できるなど、全ての設計手法を網羅していることをメリットに挙げた。「全世界で様々なプロジェクトが走っており、PTC Windchillによって進行管理がしっかりと図れる。PTCジャパンには大変な協力をしていただいた」(清水氏)。

最後に登壇したDAKTRONICS社は、屋外のLEDディスプレイで世界最大シェアを持つという企業で、360度の曲面ディスプレイなども手がけている。

様々な変形ディスプレイを顧客の要望に合わせて製作するため、より大きな製品に仕上げる場合には、設計チームもそれに見合った人員数を用意する必要があるという。試作できる小さな製品とは異なり、巨大建造物に匹敵するLEDディスプレイでは試作が難しいため、「Creoを利用してサイズを自由自在に設計できるメリットが最大限に活かせた」という。

先ほど例に挙げた360度の局面ディスプレイについても、Creo上でシミュレーションを行なってから制作している。ほかにも、様々な同社の製品を例に挙げた上で、「今後は、ディスプレイがお客さまに対してクーポンを出すといった(O2Oソリューションのような)積極的に通信してくるようなものも出てくるだろう」として、O2Oを念頭に置いた新たな展開をビジョンとして紹介した。

Unite Technologyは大きな武器に

キーノートに限らずPTCが前面に強調したのはUnite Technologyだ。サードパーティのライセンスを購入することなく、Creo単体で他社のCADデータをネイティブに取り扱えることは画期的なことだとしきりに説明。読み込み、上書きがCreo上でできるだけではなく、オプションとして書き出しにも対応していることから、他社ユーザーでも気軽にPTC Creoへの移行可能となるだろう。

PTCのMichael Campbell CADセグメント上級副社長は「PTC Creoユーザーの40%が、ほかのCADソフトも利用している。サプライヤーなどが他社製品も使用していても、シームレスなデータ変換を簡単にできるし、彼らの使っているデータフォーマットとして返すこともできるのは大きなメリットになるだろう」と話す。

こうした新機能によってますます設計のハードルが下がる一方で、ソフトウェアがサポートする機能が増大することにより、利用者がソフトウェア全体の機能を把握しにくくなることにも繋がりかねない。

Campbell氏は「Creo 3.0で新たにチュートリアルを入れた。最新の機能もソフトウェアの中で見られるし、Googleの検索技術を用いるなど、ヘルプシステム自体の改善も図っている」と、操作性の改善についてもアピールしていた。