6月19日に横浜の情報文化センターで2回目の開催となる「ノーマリーオフ(Normally Off) コンピューティング」の公開シンポジウムが開催された。会場は、ほぼ満席で消費電力低減に関する関心の高さをうかがわせる。

ノーマリーオフ プロジェクトは通常は電源がオフで、動作を必要とするときだけ電源をオンにするという動作を実現して、機器の消費電力を1/10にしようというプロジェクトで、東京大学(東大)の中村宏教授がリーダーで、東大、東芝、ルネサス、ロームが共同で推進している。このプロジェクトは平成23年9月から28年2月までの5年間の実施期間で、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)からの開発費の一部の助成を受けている。

実施体制は、図1のように東大と3社が集まって汎用的な技術を研究開発する集中研と各社が独立にターゲットに向けての研究開発を行う分散研があり、両方が密に連携してプロジェクトを実施する。

図1 ノーマリオフプロジェクトの実施体制 (以下すべての図は、中村教授の発表スライドからの抜粋)

各社のターゲットは、東芝は携帯情報端末、ルネサスはスマートシティを実現するセンサノード、ロームは心電信号などをモニタするヘルスケア機器で、プロジェクトの開始時点での、それぞれの機器の消費電力を1/10に低減するというのが目標である。

機器がアイドルの時には電源を切ってしまえば電力を消費しなくなるが、これには大きく言って、2つの問題がある。1つは電源を切ると、CPU内部のレジスタやキャッシュメモリの情報が消えてしまう。DRAMの電源も切れば、より電力を下げられるが、DRAMの情報も消えてしまう。従って、電源を再びオンにしたときに何らかの方法で、これらのデータを復元する必要があり、それには時間がかかりエネルギーも消費する。

図2 ノーマリオフでは、不揮発性メモリを使って電源オフにして状態を保持する。しかし、それでも速度が遅い、書き込み電力が大きいという問題がある

この問題を解決するため、ノーマリーオフプロジェクトでは不揮発性メモリを使う。CPU内部のレジスタやキャッシュ、そしてメインメモリを不揮発性のメモリにしてしまえば、電源を切っても情報は失われないので、復元の必要はない。

しかし、これで問題解決とは行かない。不揮発性メモリは、書き込み電力がSRAMに比べて大きく、頻繁に書き込みが行われる場合には、逆に、消費電力が増えてしまうということも起こる。このため、1回の書き込みで余計に消費するエネルギー以上に、電源オフで節約するエネルギーが大きくならないと得にならない。この両者が同じになる電源オフ時間をブレークイーブンタイム(BET)と言い、BET以上の電源オフ期間が取れないと節約にならない。

図3 不揮発性メモリを使えば、自動的に電力が減るとは限らない

STT-MRAM(Spin Torque Transfer Magnetic RAM)の場合、1K wordを書き込むと1秒程度のBETになるという。このため、アクセスエネルギーの小さい不揮発性メモリの開発とBETよりも長い電源オフ時間を実現することが重要になる。

図4 各種のアプリが要求するBreak Even Time

図4に示すように、アプリによって要求されるBETには大きな幅があるが、完全に電源をオフにするDeep StandbyのようにBETが5秒では役に立たない。このため、アプリとシステムを協調設計して、アクセスエネルギーの小さい不揮発性メモリを開発することと、非動作時間を長くするコンピューティング技術を開発することが必要になるという。

そして、図5のように、3つのアプリ分野を想定し、共通的な技術を集中研で開発し、個別の技術を3社の分散研で開発するというわけである。

図5 想定する3つの応用分野とその特性

そして、個別の技術については、図6に示すように、さらに再委託を行うという体制になっている。

図6 再委託を含む詳細な実施体制

ノーマリーオフプロジェクトは3年目の終わりに近づいており、各社の研究開発も具体的な成果が出てきている。この第2回の公開シンポジウムでは、中村教授の概況報告に続いて、各社からの現状の発表が行われており、順に紹介して行く予定である。