名古屋大学(名大)は6月18日、MRIを用いて、安静状態での脳活動(default mode network:DMN)を自閉症スペクトラム障害(Autism spectrum disorder:ASD)をもつ複数の青年期男性で調べたところ、健康な青年期群(定型発達群)と比べて、DMNの脳領域間(内側前頭前野と後部帯状回など)の機能的連結が弱いことを確認したと発表した。
同成果は、福井大学子どものこころの発達研究センターの小坂浩隆 特命准教授、同 斎藤大輔 特命准教授、同 浅野みずき 特命教授、同 友田明美 教授、同 棟居俊夫 特任教授、福井大学 医学部精神医学領域の猪原敬介 学術研究員、同 和田有司 教授、福井大学 高エネルギー医学研究センターの岡沢秀彦 教授、大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科 福井校のジョンミンヨン院生、国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所の石飛信 所長、大阪大学 工学研究科の守田知代 特任講師、大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科 福井校の新井清義 院生、生理学研究所 大脳皮質機能研究系の定藤規弘 教授、名古屋大学大学院医学系研究科精神生物学 飯髙哲也 准教授らによるもの。詳細は、6月11日付の電子版科学雑誌「Molecular Autism」に掲載された。
自閉症スペクトラム障害(ASD)の病態探究に向け、これまで社会性課題を用いた脳画像研究が行われてきており、これにより社会的行動には、脳の正中部に位置する内側前頭前野(medial prefrontal cortex:MPFC)と後部帯状回(posterior cingulate cortex:PCC)などの脳領域が関与していることが分かってきた。また、近年は「デフォルトモードネットワーク(default mode network:DMN)」と呼ばれる安静状態での脳活動をMR撮影によりとらえる脳機能研究(resting-state functional magnetic resonance imaging:rs-fMRI)が行われるようになってきており、これにとり、従来よりも簡便に、社会的行動に関与するDMNの脳領域間の機能的連結を探求することができるようになってきた。
今回、研究グループは、知的障害を有さないASDをもつ青年期男性被検者19名(年齢16~40歳)と、年齢と知能指数を一致させた定型発達被検者21名に、安静状態での機能的脳活動をMR撮影にて測定。MPFCとPCCが機能的連結している脳領域の大きさと連結の強さを調べたところ、ASD群のほうが、定型発達群と比較して、MPFCとPCCが機能的に連結している脳領域は小さく、連結が弱いことが判明したという。また、その両群の違いが見られた脳領域での脳活動と自閉症スペクトラム傾向を表す値「自閉症スペクトラム指数(autism spectrum quotient:AQ)」は負の相関関係が認められたとするほか、両群において、AQと負の相関関係を示す領域がいくつか認められたとする。
今回の成果について研究グループは、DMNの脳活動パターンがASD診断にかかわらず自閉症スペクトラム傾向のバイオマーカーになる可能性を示すものであると説明しており、今後、女性や幼少児、知的障害を有する方など、別の参加者の条件下でも同じような結果になるのか検討を進めていく必要があるとしている。