物質・材料研究機構(NIMS)は6月18日、狙った大きさの摩擦を有する摩擦材料の開発において、従来にない高効率な方法を創出したと発表した。これにより、エネルギーのロスを削減する低摩擦材料や、高性能ブレーキに必要な高摩擦材料など、目的に応じた摩擦係数を持つ材料の開発を加速できるという。
同成果は、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 ナノエレクトロニクス材料ユニットの後藤真宏MANA研究者、先進高温材料ユニットの佐々木道子NIMSポスドク研究員、土佐正弘グループリーダーらによるもの。詳細は、「Tribology Letters」に掲載された。
材料の持つ摩擦の大きさを自在にコントロールする技術は、新素材開発において重要な要素である。例えば、地球環境・エネルギー問題が深刻化する中、発電機やモータの摩擦を低下させることは省エネに直結する。こうした中、既存の構造材料にコーティングを施すことで摩擦力を制御する技術が注目されている。しかし、コーティングは、その結晶配向の違いにより摩擦特性が大きく変化するため、必要とする摩擦特性を有した材料を得るには組成や結晶構造・配向などの諸条件を変えた膨大な数の実験が必要なために、開発が長期化していた。今回、コンビナトリアルテクノロジーという手法を結晶配向性制御による摩擦材料開発分野に取り入れ、多くの回数に及ぶ試行が1回で済む、従来にない高い効率での材料開発が可能となる全く新しい手法を創出したという。
例えば、一般的な金属酸化物である酸化亜鉛(ZnO)は、その結晶配向性を最適化すると低摩擦現象が発現する。しかし、その低摩擦特性を有するための最適な結晶配向・構造を知るためには、コーティング条件を変化させ、結晶配向を様々に変化させた大量のサンプルを作製し、その結晶配向ならびに摩擦特性評価を行う必要があり、多大な研究開発期間を必要としていた。
今回、研究グループは、荷重、圧子材料種や摺動回数など、コーティング膜の条件を変化させて摺動した摺動痕を微小領域ごとに結晶構造を解析し、それらの条件変化により結晶配向を変えられることを突き止めた。また、その結晶配向に対応する場所の摩擦係数も合わせて測定することにより、摩擦係数と結晶配向との相関を1回の実験のみで明らかにすることを可能とした。
また、同手法は、摺動条件を変化させることにより、摩擦プロセスだけで材料の結晶配向を制御することも可能となった。これは、摩擦材料開発に大きな可能性を広げる成果であるとしてている。また今回、提唱されたコンビナトリアルトライボロジー手法は、必要とする摩擦係数を有する結晶構造・配向の情報を短時間で取得することができるとともに、材料表層部の結晶配向を単なる摩擦だけで特定の結晶配向に変化させることができる方法であり、今後の摩擦材料研究の有力な手法となることが期待されるとコメントしている。