過剰な攻撃行動を促す遺伝子が少なくとも2つの染色体に存在し、それぞれ異なった性質の攻撃行動に関与していることを、国立遺伝学研究所(静岡県三島市)の高橋阿貴(たかはし あき)助教と小出剛(こいで つよし)准教授らがマウスで見つけた。高い攻撃性が現れる際には、中脳のセロトニン神経系に変化が生じていることも示した。動物の攻撃行動を遺伝子レベルで解析する手がかりになる研究で、6月11日付のスイス科学誌Frontiers in Neuroscienceに発表した。
マウスのオスは自らのなわばりを守るために、侵入者のオスに対して攻撃行動をする。相手を追い払うことが目的で、けがを負わせたり殺したりしてしまうことは、実験用マウスではほとんどない。一方、三島市で捕獲した野生マウスから樹立したMSM系統のオスは高い攻撃性を示し、離乳後にオス同士を一緒に飼育していると、性成熟後に激しいけんかが起こり、兄弟や、ときには交配相手のメスまで殺してしまう。
研究グループは、この凶暴なMSM系統マウスの高い攻撃性に関わる遺伝子座を明らかにするため、城石俊彦(しろいし としひこ)教授らがつくったコンソミックマウス系統群で、どの染色体に攻撃性の遺伝子があるか、解析した。コンソミックマウス系統とは、ほとんど全ての遺伝子は実験用マウス同じだが、全部で21種類ある染色体のうち1種類の染色体のみMSM系統に由来するマウスで、染色体ごとの機能解析に適している。
この遺伝学的な解析で、MSM系統の高い攻撃性に関わる遺伝子が、4番染色体と15番染色体に存在することがわかった。それぞれの染色体が行動に及ぼす効果を調べた。MSM型の4番染色体を持つコンソミック系統は攻撃をひとたび始めてしまうと、異常に高いかみつきや追いまわしを続け、交配相手のメスに傷を負わせる個体も存在した。一方、MSM型の15番染色体を持つコンソミック系統は、攻撃行動を開始しやすい(キレやすい)が、最後まで攻撃を徹底しない様子がうかがえた。
攻撃行動には脳内の生理物質のセロトニンが関与することが多くの研究で報告されている。研究グループはマウスの中脳のセロトニン関連遺伝子の発現を調べ、高い攻撃行動を示すマウスで、セロトニン合成酵素の遺伝子の発現が増えていることも確かめた。
研究グループの高橋阿貴さんは「攻撃行動の調節に関わる遺伝子がそれぞれ違った性質の攻撃性に関与しており、その遺伝的な複雑さがわかった。マウスの染色体で4番と15番まで絞り込めたので、さらに攻撃性の違い(個体差)に関わる遺伝子まで分離して、その生物学的メカニズムを知りたい。ヒトの攻撃性には、環境がより強く影響するので、マウスの結果が単純には結びつかないが、何らかの遺伝的な要因も、こうした研究で浮かび上がるだろう」と話している。
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