ポルトガル沖のカディス湾とイベリア大陸縁辺部の海底で掘削、採取した堆積物柱状試料(コア)に、地中海の水がジブラルタル海峡から北大西洋に流れ出る「地中海流出水」によってできる堆積物を、国際チームが確認した。詳細に解析して、過去約500万年間の地中海流出水の歴史を解明し、北大西洋の海底の流れと気候変動との関わりを示した。
米科学掘削船ジョイデスレゾリューション号が2011年11月~12年1月、ポルトガル沖で実施した統合国際深海掘削計画(IODP)「地中海流出水」の成果である。この航海には14カ国35人の研究者が乗船した。日本からは海洋研究開発機構や産業技術総合研究所、新潟大学、北海道大学の計6人が参加。カディス湾とイベリア半島西方沖大陸棚で初めて本格的調査を実施し、6カ所でコアを掘削した。6月13日付の米科学誌サイエンスに発表した。
地中海と太平洋をつなぐジブラルタル海峡(最狭幅14km、深さ約350m)は約530万年前に開かれた。この海峡を通してずっと、表面潮流は大西洋から地中海へ、底層流は地中海の高塩分水が大西洋へと流れ出て、海水の交換が行われてきた。地中海は蒸発が盛んで海水の塩分が高まる。密度が高くて重いため、大西洋に出ると、滝のように海底斜面を流れ下り、500~1000m付近の等深線(コンター)に沿って強い底層流となり、海底に特異な堆積物を形成する。この堆積物はコンターライトと呼ばれ、海洋循環や気候変動を記す“年輪”と見られていたが、これまで詳しい科学掘削はされていなかった。
国際研究チームは今回の国際深海掘削計画の航海で海底から多数のコアを採取して、解析した。コンターライトの泥が約500万年前からの環境変動を記録していることがわかった。ジブラルタル海峡が開いてから、地中海から海水の流出が始まり、次第に流れが強まり、90~70万年前からは、北大西洋の海洋循環と地中海流出水との関連が見いだされるようにまでなった。
また、温暖期だった後期鮮新世(320~300万年前)、前期更新世(240~200万年前)、後期更新世(90~70万年前)に地中海流出水が強くなっていた証拠が見つかった。これらの時期にカディス湾では底層の強い流れによって、砂や泥が堆積できない期間や堆積物の形成パターンの変化といった特徴的な現象が起きていた。研究チームは「地中海流出水が発達すると、北西大西洋の中層に比較的塩分の高い水が供給され、大西洋海洋循環や地球規模の熱塩循環が強くなることを示唆する興味深い発見」とみている。
この研究に参加した海洋研究開発機構の黒田潤一郎主任研究員は「地中海流出水は海中の巨大な大河である。遠方まで流れて北大西洋で始まる深層水の大循環にも関連している可能性があり、地球規模の海洋の熱循環を探る新しい手がかりといえる。今回の研究はその出発点となった」と話している。