アドビ システムズは6月12日、都内でデジタルマーケティングカンファレンス「Adobe Digital Marketing Symposium」を開催した。韓国からの来場者も含め1500人ほどが参加する中、基調講演のほか約20のセッションが行われた。

あわせてメディア向けにAdobe Marketing Cloudが目指す方向性を"チラ見せ"する「Sneak Peek」が行われた。Sneak Peekとは、開発プレビュー版の紹介といった意味合いだ。

Adobe Marketing Cloudは6つのソリューションから構成されている。Omnitureを買収して得たSiteCatalystをベースとするアクセス解析「Adobe Analytics」をメインに、ABテストやルールベースのターゲティングを行う「Adobe Target」、ソーシャルメディアを管理する「Adobe Social」、広告管理製品としてROI最適化を図る「Adobe Media Manager」、デジタル素材の制作や管理を行う「Adobe Experience Manager」、マーケティングチャネルでのコミュニケーション管理を行う「Adobe Campaign」だ。

Adobe Systems Group Manager, Technical Marketing & Evangleism Marketing Cloud Evangelist
マーク・イーマン氏

Adobeでは、これらの製品を利用する約200社からなるCAB(Customer Advisory Board)と共に、フィードバックを得たり製品の方向性を考えたりするミーティングを定期的に行っている。2013年にはグローバルで863回のミーティングを開催。そこで得られた意見なども含め、今後の製品アイデアとして紹介する場がAdobeのSneak Peekとなっている。

Sneak Peekはアイデアの段階。ここで披露されたもののすべてが実装されるわけではないが、2013年には9つのSneak Peekが紹介され、そのうち7つが実現している。

今回、説明が行われたのは3月に米国で開催されたAdobe Summitで公開された内容の一部で、「リアルタイムオファー(#Realtime Offers)」「オートインフォグラフィックス(#Auto Infographics)」「イベントトリガー(#Event Triggers)」というもの。説明を行ったのは、米Adobe SystemsでMarketing Cloudのエヴェンジェリストを務めるマーク・イーマン(Marc Eaman)氏。

顧客を逃さない! 「リアルタイムオファー(#Realtime Offers)」

リアル店舗で商品を手にとってじっくり見ている客がいたとしよう。購入見込みがありそうだ。だが、しばらくすると商品を棚に戻してしまった。カラーが気に入らなかったのだろうか、それとも素材? 価格? おそらくこのようなシーンでは店員が声をかけ、客の気になる点を聞いて他の商品をオススメしたりするだろう。

ではECサイトでは?

Realtime Offersでは、ECサイトのカートをリアルタイムに確認できるようになっている。カートにどの商品が入っているかを把握でき、なおかつ、過去の多くの客の行動データ(ページ遷移など)から、その人が購入にいたるか、あるいはカートを放棄してしまうかを予測表示してくれる。

そして、ある客が今、カートの商品を放棄してしまいそうだと予測されたとしよう。その場合には、例えば、利用者の画面(ECサイトのブラウザ上)に割引といったキャンペーンバナーをオーバーレイ表示して購入へとつなげる、あるいはチャットへの案内を表示し疑問点などがないか訊いてみる、そのようなことを可能にするのがRealtime Offersだ。

リアルタイムにデータを取得しそれを取り込むのは容易なことではないが、デジタルマーケティングの世界ではこれが実現しつつある。すると、そのデータをどのように活用できるかということになる。瞬発力のある対応で客を逃さない。Realtime Offersではこのようなことが実現できるかもしれない。

リアルタイムでカートの状況を把握でき、分析予測によって放棄されそうなカートも確認できる

客側の画面。カートに商品を入れたのにQ&Aを見ていることからカート放棄の可能性があるかもしれない。そこで割引キャンペーンの案内をオーバーレイ表示してみた

レポート作成をもっと簡単に! 「オートインフォグラフィックス(#Auto Infographics)」

デジタルマーケターにとって数字(レポート)は重要な要素のひとつ。担当者としてはダッシュボードのように必要な項目をまとめて確認できる画面が便利で、もちろん、Adobe Marketing Cloudも同様の機能を持っている。

一方で、経営者層向けのプレゼンや社外向け年次報告書などでは、数字ばっかりのグラフではちょっと味気ない場合もある。また、ポイントとなる部分をグラフィカルに強調したいこともあるだろう。そのような際にはデザインツールを使用して、その都度、見栄えのするレポートを作成する必要がある。

Auto Infographicsはそのような課題を解決するAdobeらしい試みと言える。デザインツールのAdobe Illustratorにはその初期からグラフ作成ツールが用意されており、これを利用してデザイン性のあるレポートグラフを作成できるようにしようというものだ。

まずIllustratorでは、レポートグラフのテンプレートを用意する。そしてデータソースとしてAdobe Marketing Cloudを指定するという流れだ。グラフの項目を選択して、そこに割り当てるデータを選択するだけで、簡単に見栄えのするレポートグラフが作成できる。

グラフは自動的にアップデートされ、週次や月次といった更新作業の手間も省くことが可能だという。

Adobe Illustratorの画面。右側のペインにAdobe Marketing Cloudのデータソースが一覧表示される

テンプレートのグラフ要素を選択し、右側のペインから割り当てるデータ要素を選ぶ

顧客を狙い撃ち! 「イベントトリガー(#Event Triggers)」

Adobe Analyticsに追加されたリアルタイムレポート。このような顧客の行動から得られるリアルタイムデータを活用しようというアイデアがEvent Triggersだ。単に「何かが起きたら何かをする」というだけではなく、リアルタイムでのアクションもひとつのポイントとなっている。

例えば、ECサイトでカートに商品を入れ、ログインして購入直前だったユーザがログアウトしてしまったとしよう。理由はさまざまで、会社の昼休みが終わってしまった、別の用事を思い出した、あるいはPCが不正終了してしまった……。

このような「何かのイベント」をきっかけにアクションを起こすように設定しておく機能がEvent Triggersとなら。

前述の例では、ログインしているので"誰が"ということも分かり、その人のメールアドレスも店舗側で持っている。そこで、ログアウトという「イベント」をきっかけに「カートに商品を取り置いていますので、またのご来店を」のようなメールメッセージを即座に送ってみたらどうだろうか。あるいは、その人のスマートデバイスなどのGPSやiBaeconを利用してリアル店舗の近くに来た際に「この前、カートに入れた商品が店舗で10%オフです。ぜひご来店を」といったメッセージを送るのはどうだろうか。

これらはアクションの一例だが、Adobeが考えるのは、リアルタイムで得られるデータ(イベント)をいかに活用するかだ。これをパーソナライゼーションとあわせて利用することで、デジタルマーケティングは、あらたな展開を迎えるだろう。

2014年のSneak Peekからどの機能が実現するかは分からないが、デジタルにおけるリアルタイムマーケティングとパーソナライゼーションがひとつのキーとなるだろう。

商品購入直前でログアウトしてしまった客が店舗の近くに来た際に、タブレットに通知