宇宙最大級の爆発「ガンマ線バースト」は謎の多い現象だ。そのガンマ線バーストが発生した銀河から分子ガスの電波を、国立天文台チリ観測所の廿日出文洋(はつかで ぶんよう)特任助教と太田耕司京都大学教授、河野孝太郎東京大学教授らが、南米チリの高地にあるアルマ望遠鏡で検出した。今回観測したガンマ線バーストは、驚くほどちりの多い環境で発生したこともわかった。ガンマ線バーストの解明につながる発見として注目される。6月12日の英科学誌ネイチャーに発表した。
写真1. GRB 020819Bの母銀河の観測結果。左と中央はアルマ望遠鏡による観測結果で、分子ガスが放つ電波の強度分布(左)とちりが放つ電波の強度分布(中央)の図。右は米国のジェミニ北望遠鏡による可視光観測画像。画像中央上にある十字がガンマ線バーストの発生位置を示す。(Credit:廿日出文洋(国立天文台)、ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/Gemini Observatory) |
アルマ望遠鏡で観測したのは、ガンマ線バーストGRB 020819B(距離は約43億光年)とGRB 051022(距離は約69億光年)が属する2つの銀河。いずれも、太陽の40倍以上の質量の巨大な星が一生を終えた際に大爆発してガンマ線の閃光を発すると考えられている。高感度を誇るアルマ望遠鏡によって、この2つのガンマ線バーストの母銀河で分子ガスとちりが発する電波の検出に世界で初めて成功した。
特に、地球からより近いGRB 020819Bが属する銀河では、分子ガスとちりの分布が大きく異なっていた。分子ガスは銀河の中心に多く分布し、ちりはガンマ線バーストが発生した場所に多く存在していた。ガンマ線バーストが発生した場所では、分子ガスに対するちりの量が通常の環境より10倍以上多くなっていた。ガンマ線バーストが発生した銀河における分子ガスとちりの空間分布を明らかにしたのもこの観測が初めてだ。
研究チーム代表の廿日出文洋さんは「これほどガスが少なく、ちりが多い環境でガンマ線バーストが起きているとはまったく予想外だった。これは、ガンマ線バーストが普通とは異なる特殊な環境で発生したことを意味する」と指摘する。
河野孝太郎教授も「私たちは10年余り、世界の望遠鏡を駆使して、ガンマ線バーストが発生した分子ガスの探査を続けてきた。長い苦闘の末に、アルマ望遠鏡でついに壁を突破できた。しかし、その観測結果は驚くべきもので、現在考えられているガンマ線バーストの描像とは相いれないようにも見える。天文学に一石を投じるだろう」と話している。
今回の観測の感度は、これまでの他の望遠鏡による観測より5倍も良く、アルマ望遠鏡の高い性能が裏付けられた。河野教授は「総アンテナ数の半分以下の27台のアンテナしか使われていない初期科学観測で、しかもわずか47分でこれほどの高感度観測ができたことを強調したい。アルマ望遠鏡は今後も大きな成果をもたらすだろう」と期待している。