北海道大学(北大)は6月11日、北海道で「アブラコ(アイナメ)の合いの子」といわれている雑種が、海産魚としては初めて、世界でも6例目となる半クローン生物であることを実証したと発表した。

同成果は、同大大学院環境科学研究院・東北大学大学院生命科学研究科の木村-川口幹子氏、北大大学院環境科学研究院の堀田海帆氏、同大大学院水産科学研究院の阿部周一氏、同 荒井克俊氏、東北大学大学院生命科学研究科の河田雅圭 教授、北大北方生物圏フィールド科学センター水圏ステーション臼尻水産実験所 所長の宗原弘幸氏らによるもの。詳細は「Journal of Fish Biology」に掲載された。

多くの生物は、地殻変動によって生息地が分断されて種分化するが、その後、分断していた障壁が消えるような地殻変動が再び起き、分化した2種が再び出会うことで交雑が起こる(2次的接触)。この場合、2種が融合して1種になる場合のほか、遺伝的分化が大きい場合は、種の認知を強化し、別な種として共存することもある。しかし、希に2種の遺伝子を混ぜ合わせることなく生存可能な生殖方法を持った、新たな集団が生まれることがあり、「半クローン」もその1つとして知られている。

研究グループでは、今回、アイナメ属の雑種2系統と純粋種3種の集団構造解析と人工交配による実験を行ったところ、野外雑種2系統はともに個体発生には両親に由来する遺伝子を使うが、卵を作る際に父親由来の遺伝子を捨て、母親のゲノムだけが子に伝わり、父親由来の遺伝子は毎世代入れ替わる「半クローン生殖」が行われていることを確認したという。

また、これまで半クローンは、遺伝的な共通性が微妙な近縁種の組み合わせで生ずると考えられてきたが、今回の研究から、雑種の母種のスジアイナメと父種のクジメおよびアイナメを使った純粋種間の交雑では、半クローンを作り出せず、野外で通常行われている野外雑種と父種を交配させる戻し交配(雑種とその親種が交配すること)でのみ半クローンを再現できることを確認。この結果、野外雑種は毎世代の交雑で出現するのではなく、過去に半クローンとなる遺伝的な変異を持った雑種が戻し交配で継代する集団であることが示されたという。

研究グループは、半クローンは、全雌の単性集団であるため繁殖速度が早く、狭い生息域では競合する種を駆逐し、一時的に大集団となることができるものの、環境変動や寄生生物の襲来に耐えられる遺伝的多様性が乏しく、やがては絶滅に向かう存在であると説明するほか、今回の成果から、いつごろから半クローン生物が地球に現れたのか、半クローンを生じさせる遺伝子の変異とはどのようなものかなどを調べていくことで、将来的に性の進化の解明につながることが期待されるとコメント。また、半クローンは組み替えしないため、配偶子を作る際に働く遺伝子の構造など、基礎生物学を進展させるモデル生物になる可能性があり、この仕組みを他の生物にも応用できるようになれば、希少生物のゲノムの維持といった生物資源の保全や、免疫が障壁となっている再生医療にも役立つことが期待されるとしている。

アイナメ属の交雑に関わる親種3種の分布と種分化年代の模式図。寒冷種のスジアイナメと温帯種のクジメとアイナメのそれぞれの祖先種が種分化した後、アイナメとクジメの種分化を経て、現在までの海進後に、3種が北海道南部と沿海州で2次的接触し交雑が起きた

同種同士の交配、純粋種間の雑種、および野外雑種とその父種との戻し交配で得られた仔魚の遺伝子分析の結果。3種は交わることなく、3つに分かれ、種間雑種はその中間の特徴を示した。野外雑種と父種との戻し交配で得た仔魚は、もし野外雑種が組み替えするなら、父種寄りになる。しかし、種間雑種と重複して、純粋種の中間に分布した。この遺伝子実験は、野外雑種が半クローンであることを示す証拠の1つとなった

交配実験の結果。半クローンである野外雑種のゲノム組成は、純粋種の種間雑種(F1雑種)と同様に、親種のゲノムが一対ずつである。そこで、野外雑種とF1雑種が同質の集団であるかを確かめるため、人工交配でこれらの雑種を作り、成熟するまで育成し、それぞれの雑種の遺伝様式を調べたところ、F1雑種は半クローンではなく組み替えし、野外雑種だけが半クローンであることが確認された。これらの結果から、半クローンは、F1雑種とは、異質であることが分かった。このため、半クローンは、種間交雑で毎世代出現するのではなく、2次的接触の初期に出現した半クローンを導く遺伝的な変異個体(野外雑種)を起源とし、父種と戻し交配して継代してきた集団であることが示された