岡山大学は6月9日、高温高圧で液体の水から「氷(氷VII)」が生じる過程で新しい氷が出現することを分子シミュレーションを活用することで発見したと発表した。

同成果は、同大大学院自然科学研究科(理学部)の望月建爾 助教、樋本和大 博士研究員、松本正和 准教授らによるもの。詳細はイギリス王立化学協会の国際科学雑誌「Physical Chemistry Chemical Physics」オンライン版に掲載された。

氷は、温度や圧力などの環境に応じてその結晶構造を変え、これまでの研究から、その数は16種類あることが知られている。中でも氷VIIは、2万気圧以上の高圧で存在し、100℃を超えても融けない「熱い氷」として知られており、一般に冷凍庫で作られる氷(氷I)の2倍近くの密度を持ち、海王星などの巨大惑星に存在することが予想されているが、これまでその形成プロセスはよく分かっていなかった。

今回、研究グループは、分子シミュレーションを活用することで、液体の水から氷VIIへの結晶化の全過程を、1ピコ秒ごとに観察、氷VIIが生じる仕組みを分子レベルで調査したところ、氷VIIが生じる過程で一時的にこれまで知られていなかった新種の結晶構造を持つ「熱い氷」が生じることを発見した。

今回の新種の氷については、これまでの氷と同様、実験で確認できれば、新たな氷として認定されることとなる。また、研究グループでは、今回の成果から、相転移現象そのものへの理解が深まることが期待されるとするほか、相転移の結果だけでなく、その過程に注目することで、相転移の分子メカニズムを深く理解できる例が示されたことから、氷だけでなく、シリコンやタンパク質など他の物質の相転移においても、準安定状態に注目して解析することで、相転移の制御や、特殊な結晶の創出につなげられる可能性がでてきたとコメントしている。

これまで発見されている16種類の氷。水の温度・圧力相図。線で囲まれた範囲が、1つの相(状態)を表している。線を跨いで状態が変化すること=相転移であり、日常で目にする相転移(氷の融解・水の凍結)には青と黄色の、今回の研究で調べられた相転移過程の場所に赤い矢印が記されている

今回発見された新種の氷の単位結晶構造(左)と氷VIIの単位結晶構造(右)。1分子を1つの球で表現している