燃料電池の電極に使われている白金触媒の能力をはるかに超える水素酵素(ヒドロゲナーゼ)電極の開発に、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の小江誠司(おごう せいじ)教授らが世界で初めて成功した。酸素に安定な酵素ヒドロゲナーゼ S–77を阿蘇山で発見し、燃料電池の電極の触媒としてその驚異的な性能を実証した。

図1.ヒドロゲナーゼS-77と白金による水素酸化の質量活性の比較(提供:九州大学)

高価な白金に変わる将来の燃料電池の電極材料に、新しい触媒を開発していく一歩を踏み出す成果として注目される。名古屋大学との共同研究で、6月4日付のドイツ科学誌Angewandte Chemie International Editionオンライン版に発表した。同誌は表紙に、この酵素を阿蘇山で見つけたイメージをイラストで掲げて、成果をたたえた。

図2. 燃料電池の電力密度と電流密度の関係(提供:九州大学)

写真1. ヒドロゲナーゼS-77を電極に用いた燃料電池による発電の様子(提供:九州大学)

水素と酸素から電気を作り出す燃料電池は、次世代の発電デバイスになりうると有望視されている。ヒドロゲナーゼは鉄とニッケルを活性中心に持つ金属酵素で、燃料電池の電極として、白金と同様に水素から電子を取り出し、白金に優る能力を持つと期待されている。しかし、酸素に対して不安定なため、燃料電池への応用はこれまで難しかった。

今回、研究グループは阿蘇山の苛酷な熱水噴出域周辺の環境からヒドロゲナーゼS-77を見つけた。この酵素は酸素に安定だった。燃料電池の電極に使ったところ、白金をはるかに超える能力を発揮した。水素を酸化する活性は質量当たりで637倍、電流密度と電圧密度で各1.8倍の能力を持っていた。

小江誠司教授は「自然界の酵素が白金よりも600倍以上の能力を持っていることを世界に示した点に最大の意義がある。この酵素を電極に塗る仕方を改良すれば、燃料電池の発電量は数百倍に上がる。触媒として水素を切断する仕組みが白金と違い、非対称なのが効いているのだろう。酵素自体を燃料電池に使うには耐久性などの課題もあるが、この研究で人工触媒の設計に道を開きたい」と話している。