理化学研究所(理研)は6月10日、陽子の磁気モーメントを直接測定し、相対誤差(真の値に対する誤差の割合)が10億分の3.3(3.3ppb)という超高精度な測定値を得ることに成功したと発表した。
同成果は、同所 ウルマー国際主幹研究ユニットのステファン・ウルマーユニットリーダーらによるもの。ドイツのマインツ大学、重イオン研究所(GSI)、マックス・プランク物理学研究所と共同で行われた。詳細は、英国の科学雑誌「Nature」オンライン版に掲載された。
現在の宇宙は、ビッグバンによってつくられた同量の物質と反物質が完全に対消滅しなかったため、一部の物質が生き残ったと考えられている。しかし、なぜ物質と反物質が完全に対消滅しなかったのかということは、いまでも現代物理学の大きな謎の1つとなっている。これまで、物質と反物質の違いを観測する試みが数多く行われているが、中でも物質と反物質の磁気モーメントを比較する研究に期待がかかっているという。それは、わずかでも両者の磁気モーメントの違いを発見できれば「物質-反物質非対称性」の説明が可能になるからである。もし発見できれば、素粒子物理の標準理論の構成要素である「CPT対称性」を揺るがすことにつながる。共同研究グループは今回、陽子と反陽子の磁気モーメントのうち、陽子の磁気モーメントを超高精度で求める試みに挑戦した。
実験では、荷電粒子の質量や磁気モーメントを高精度測定できるペニングトラップという装置を使用した。同装置は磁場と電場で荷電粒子を捕獲する。そして、1個の陽子を閉じ込め、磁気モーメントを直接測定した結果、2012年に、ハーバード大学とマインツ大学でそれぞれ行われたペニングトラップを用いた陽子の磁気モーメントの直接測定に比べ、測定精度が760倍改善したことを確認した。また、1972年に行われた陽子の代わりに水素原子を使う間接測定の精度より2.5倍高精度だった。今回、陽子の磁気モーメントの高精度測定に成功したことにより、物質-反物質対称性の検証のうち、半分を達成したことになると説明している。