名古屋大学(名大)は、最先端の計算科学手法である第一原理計算を用いて、新型メモリ「Topological Switching RAM(TRAM)」の基本構造であるGeTe/Sb2Te3超格子構造の熱安定性の機構を明らかにし、TRAMの高信頼化への指針を確立したと発表した。

同成果は、同大 工学研究科 計算理工学専攻の白石賢二教授、量子工学専攻の洗平昌晃助教らによるもの。超低電力デバイス技術研究組合(LEAP)と「低炭素社会を実現する超低電圧デバイスプロジェクト」において共同で行われた。詳細は、6月9日から開催される半導体デバイ ス、プロセス関係の国際会議「2014 Symposia on VLSI Technology and Circuits」にて発表された。

TRAMは、GeTe/Sb2Te3超格子材料を用いた新たなメモリである。従来の相変化デバイスとは異なり、溶融をともなわず、Ge原子の短範囲移動で、抵抗変化が低電力で発現する将来有望なメモリデバイスとして注目されている。しかし、TRAMの抵抗が高抵抗から低抵抗に移り変わる際に何が起こっているのかはこれまでまったくわかっていなかった。今回、研究グループでは、第一原理量子論による解析を行い、高抵抗から低抵抗に遷移する際にエネルギーの高い中間の遷移状態を経ることを解明した。これにより、TRAMは高抵抗状態も低抵抗状態も熱的に極めて安定に動作することが期待されるとしている。

抵抗変化メカニズムとデータ保持の温度依存性。(左)TRAMと(右)PRAMの比較。抵抗変化型不揮発メモリの熱安定性は、加熱による不可逆的な抵抗変化の起こり難さで評価される。今回、高品質なGeTe/Sb2Te3超格子を用いたTRAMが200℃まで加熱しても抵抗値変化が起こり難いことを確認した。これに対し、従来のGeSbTe合金を用いた従来の相変化メモリは150℃付近で、急激に抵抗変化(高抵抗状態が不可逆的に低抵抗状態に変化)した。電荷注入機構で抵抗変化が促進されるTRAMでは、加熱で抵抗変化が促進される従来の相変化メモリよりも優れた熱特性を有することが分かった

TRAMにおける原子レベルの構造変化とそれに伴う活性化エネルギー。TRAMの抵抗変化が起こる過程を第一原理量子論を用いて原子レベルで解析した。その結果、高抵抗状態から中間の遷移状態を経て低抵抗状態に遷移するのに、2.52eVの活性化エネルギーが存在することを明らかにした。この活性化エネルギーの値はTRAMが十分な熱安定性を有していることを示すもので、重要な研究成果である。また、この計算結果はLEAPの実験結果ともよく一致しているという

今回の設計指針を適用することで、これまでにない高速、低消費電力、高信頼性などの特性を将来のデータセンター用メモリに無理なく付加することができ、データセンターの省電力化に貢献し、低炭素社会の実現に資することが期待されるとコメントしている。