赤血球には細胞内呼吸を担う小器官のミトコンドリアがない。赤血球が分化、成熟する過程で、ミトコンドリアや核を取り除いて、酸素を体内に運ぶ役割に特化するためとみられている。この赤血球からミトコンドリアが除去されるのは、新しいタイプのオートファジー(自食作用)によることを、東京医科歯科大学難治疾患研究所の清水重臣(しみず しげおみ)教授と本田真也(ほんだ しんや)助教らが解明した。愛媛大学との共同研究で、6月4日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。
研究グループは2009年にマウスの培養細胞で、通常のAtg5遺伝子が関わるオートファジーとは異なる、新しいタイプのUlk1遺伝子関与のオートファジーを見つけている。Ulk1遺伝子の発現を止めて新しいタイプのオートファジーが起きないようにしたマウスを作製したところ、その赤血球の中にミトコンドリアが大量に残っていた。野生型やAtg5欠損のマウスでは、赤血球からミトコンドリアが正常に除かれていた。
図3. マウスの赤血球の顕微鏡写真。通常のオートファジーが起きない赤血球(左)ではミトコンドリアが正常になくなっているが、新しいタイプのオートファジーが起きない赤血球(右)では、ミトコンドリアが除かれていない(提供:東京医科歯科大学) |
この実験結果を基に研究グループは「新しいオートファジーが働いて、赤血球からミトコンドリアが除かれる」と結論づけた。Ulk1欠損マウスでは、ミトコンドリアが残る赤血球にストレスが加わってもろくなり、早く消失して貧血になることも確かめた。
清水重臣教授は「赤血球が成熟する基本原理の一端をつかめた。この知見は貧血などの血液疾患の病態解析や治療に応用できる可能性がある。新しいタイプのオートファジーが生体の中で機能していることがわかったのは今回が初めてだ。オートファジーも多様で、さまざまな生体現象に関与しているのではないか。そうした研究の突破口になる」と意義を指摘している。