神奈川科学技術アカデミー(KAST)は6月4日、安価なガラス基板上に高品質な酸化物薄膜結晶を成長させる手法を開発したと発表した。

同成果は、KASTの長谷川哲也研究代表者(東京大学 教授)、廣瀬靖研究員(東京大学 助教)、平健治研究協力員(当時、東京大学大学院生)らによるもの。物質・材料研究機構(NIMS)の佐々木高義フェローらと共同で行われた。詳細は、「ACS Nano」に掲載された。

目的物質の非晶質薄膜を熱処理によって結晶化させる固相結晶化法は、数~数十μmサイズの大きな結晶粒からなる薄膜結晶の成長手法として知られている。しかし、ガラスやプラスチックのような安価な基板上では、結晶粒の配向を制御することができないため、異方性の大きな材料では十分な性能を得られないことがあった。

研究グループは、酸化物ナノシートと呼ばれる厚さ1nm程度のシート状の単結晶をガラス基板に塗布し、固相結晶化法の種結晶として、数μm以上の大きさで配向の揃った結晶粒からなる薄膜結晶を成長させることに成功した。この手法を用いてガラス基板上に作製した酸化チタン透明導電膜は、単結晶薄膜に匹敵する電気抵抗3.6×10-4Ωcm、および移動度13cm2V-1s-1を示したという。

今回開発した手法は、酸化チタンだけでなく、代表的なエレクトロニクス材料であるチタン酸ストロンチウムにも適用できることが確認されており、酸化物薄膜結晶を用いた低コストで高性能なデバイスの開発につながることが期待されるとコメントしている。

(左)作製した酸化チタン薄膜の原子間力顕微鏡像。結晶粒の中心に、種結晶となったナノシートが存在することが確認できる。(右)電子後方散乱回折法で決定した結晶粒の配向マップ。黒線で囲まれた領域が個々の結晶粒に対応し、色が配向を表す。全ての結晶粒が(001)配向に揃っていることがわかる