北海道大学(北大)は6月4日、統合失調症や気分障害、自閉症スペクトラムなどの精神神経疾患と強く関連する遺伝子の1つであるグルタミン酸受容体「GluD1」を、高感度で特異的に検出する発現解析ツールを開発し、GluD1 が認知・運動・情動・記憶に関わる高次脳領域に発現し、特定のシナプス回路に選択的に局在していることを発見したと発表した。
同成果は、同大大学院医学研究科の今野幸太郎 助教、内ヶ島基政 助教、宮崎太輔 助教、山崎美和子 講師、渡辺雅彦 教授、慶應義塾大学医学部の松田恵子 助教、柚崎通介 教授、新潟大学脳研究所の中本千尋 大学院生、崎村建司 教授らによるもの。詳細は米国神経科学誌「The Journal of Neuroscience」に掲載された。
脳内のシナプスを介して接続される神経回路は、生後間もない時期は過剰で重複が多く、未熟な状態だが、その後の発達で選択的な強化と除去を基盤とするシナプスの刈込みにより、生活環境への適応した機能的な神経回路が構築される。研究グループでは、これまでの研究から、シナプス回路の発達成熟の分子機構として、グルタミン酸受容体GluD2が小脳の特定のニューロン(プルキンエ細胞)の特定のシナプス(平行線維シナプス)に発現し、平行線維・プルキンエ細胞シナプスの結合性の強化と維持に関わる分子であることを報告してきた。しかし、GluD2と類縁の分子として20年以上前に同定されていたGluD1は、統合失調症、気分障害、自閉症スペクトラムなどの精神神経疾患と関連する遺伝子であることまでは分かっていながら、その発現や機能的役割についてよく分かっていなかった。
具体的には、大脳や小脳などの高次領域でシナプス結合性の強化を介して高次脳機能の基盤となっているという仮説を立て、この仮説の検証に向け、GluD1の発現解析を可能にする高感度特異抗体とリボプローブを作成し、蛍光in situ ハイブリダイゼーション、蛍光抗体法、イムノブロット、免疫電顕法によりマウス脳におけるGluD1の細胞発現とシナプス局在を解析したほか、GluD1遺伝子欠損マウスのシナプス回路を電子顕微鏡を用いて検討してGluD1によるシナプス結合に対する機能の調査を行ったという。
その結果、GluD1は大脳皮質(認知に関与)、海馬(記憶)、線条体(認知と運動制御)、扁桃体と分界条床核(情動)、小脳皮質(運動学習と協調運動)などに豊富に発現し、高次脳機能と関連している可能性が示された。また、海馬と小脳で細胞発現を調べたところ、海馬では興奮性ニューロンに優位な、小脳では抑制性介在ニューロンに選択的な発現が認められ、細胞種選択的な発現特性も明らかになったという。
また、GluD2との関係性を調べたところ、それぞれの回路の結合性強化を通してGluDファミリとして小脳皮質の基本的回路構築に協同していることが示されたとする。
なお研究グループでは、今回の成果を受けて、GluD1は小脳皮質にとどまらず、認知や記憶、情動などの中枢である大脳にも豊富な発現していることから、今後はこれらの領域でのシナプス形成制御と精神神経疾患の発症との関係に焦点を当てて研究を展開することで、病因やその発症基盤の解明へとつながることが期待されると説明している。