国立天文台などの国際研究チームは、すばる望遠鏡とジェミニ望遠鏡の時間交換枠を通じ、ジェミニ北望遠鏡を使って、約450光年先の近接連星系である「ぎょしゃ座UY星」からの複雑なアウトフローの構造を明らかにし、同星では主星から幅広く吹き出すガスの流れである「アウトフロー」が出ているだけでなく、伴星からも細いジェットが出ていることも発見したと発表した。

成果は、国立天文台ハワイ観測所の表泰秀(Pyo,Tae-Soo)氏を中心とする国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、5月1日付けで「he Astrophysical Journal」に掲載された。

多くの恒星が集団で生まれて連星系として存在することから、連星系の若い時代を調べることは、星・惑星誕生の過程を理解するために重要である。円盤を伴っている若い単一星からは、アウトフローが多く見つかっている。しかし、若い連星系からのアウトフローの観測例は少なく、未解明な点が多い。そこで研究チームは今回、若い連星系であるぎょしゃ座UY星のアウトフローの構造を調べたという次第だ。

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ぎょしゃ座UY星は複雑な構造が特徴で、主星の「ぎょしゃ座UY星A」と伴星「ぎょしゃ座UY星B」は約180天文単位(=約269億km)という離れた距離にあり、それぞれ星周円盤を持っている。さらに連星系全体を囲むような円盤構造(周連星系円盤)も存在し、周連星系円盤が確認された2例目の天体として有名だ。

なお1天文単位は太陽~地球間の距離のことで、約1億5000万km。太陽~海王星間の平均距離が約30天文単位なので、180天文単位はその6倍の距離となる。見かけの角度なら0.89秒角だ(1秒角=3600分の1度)。画像1は、国立天文台が公開している天文ソフト「Mitaka」を用いて撮影した、太陽系を100~200天文単位のスケールで見たシミュレーション画像だ(オレンジ色の円が太陽から100天文単位を表している)。海王星と、太陽系外縁天体の軌道しか見えないことから、180天文単位しかない近接連星系とはいえ、ぎょしゃ座UY星のAとBがどれだけが離れているかわかるはずだ。

画像1。太陽系を100~200天文単位のスケールで見たところ (C)国立天文台

この連星系の詳細な構造、特にアウトフローの源がどこかを理解するために、研究チームは、ジェミニ北望遠鏡に搭載された近赤外線面分光装置「NIFS」と波面補償光学装置「Altair」を用いて詳細な観測が行われた。具体的には、アウトフローやジェットで生じる衝撃波から放射されるものと考えられている、波長1.2マイクロメートル(μm)にある1回電離した鉄イオンの輝線([Fe II])の観測である。いうまでもなく、ぎょしゃ座UY星のように離角が1秒角以下の近接連星系を詳細に調べるためには、大型望遠鏡を使った高い解像度での観測が必須だ。

観測の結果、主星と伴星の両方に付随しているように見えるガス流が存在することが発見された(画像2~5)。ガス流の速度を調べて見ると、秒速100kmと高速であることもわかったのである。このような高速のガス流は、星周円盤の星に近い場所から吹き出す必要があるという。

また、観測されたガスの分布は連星の2つの星をつなぐようにも見えるが、星に向かって流れ込むガス流の速度はせいぜい秒速数km程度なので、このガスの分布は連星の重力によって作られた構造ではなく、星の近くから放出されたものと考えられるとしている。

さらに、ガスの分布をより詳しく調べるために、我々から遠ざかる方向に運動(赤方偏移)しているガスと、近づきつつある方向に運動(青方偏移)しているガスの分布の違いに着目した(画像4・5)。その結果、接近するガスは主星付近に広く分布しながら伴星に細長くつながっているような形をしている一方で、後退するガスは主星の南西側(画像中では下側)だけに広く分布し、伴星付近を通ってより外側まで分布していることが判明したのである。

画像2(左):ジェミニ北望遠鏡による観測で検出されたぎょしゃ座UY星周辺の1回電離した鉄イオンガスの分布。+印は恒星の位置で、上が主星、下が伴星。大きい目盛りの間隔は1秒角に相当し、実距離で140天文単位。右下の●印は観測データの解像度(0.12秒角)を表している。画像の上方向が北東、右方向が北西。(c) 国立天文台 画像3(右):波長1μmの連続光の分布。主に恒星本体が発する光が見えている。(c) 国立天文台

画像4(左):我々に向かって運動(青方偏移)している鉄イオンガスの分布。(c) 国立天文台 画像5(右):我々から遠ざかる方向に運動(赤方偏移)している鉄イオンガスの分布。(c) 国立天文台

研究チームによれば、この分布の違いは、主星・伴星のそれぞれが円盤に対して両極方向にアウトフローを吹き出していることで、次のように説明できると考えられるという(画像6~9)。主星からは、幅の広いアウトフローが円盤の両面から吹き出し、特に赤方偏移したガス流が伴星と重なって見えている。一方、伴星からは幅の細いジェットが出ており、主星から出るアウトフローと同じ方向に伸びている。伴星の星周円盤が連星系全体に対して少し傾いていることが別の観測から知られており、そのために、伴星のジェットは主星のアウトフローと衝突するという。これら、主星・伴星を源とするアウトフローやジェットにより、今回観測された特徴的なガスの分布が作られたと研究チームは考えているとした。

画像6(左):赤方偏移ガス(赤色)と青方偏移ガス(青色)の分布の模式図。上側の主星は両極方向に広がったガス流を吹き出しながら、赤方偏移側にジェットも出している。下側の伴星からは青方偏移した細いジェットが主星側に吹き出している。(c) 国立天文台 画像7(右):ぎょしゃ座UY星の円盤群、ガス流、ジェットを真横から見たときの模式図。(c) 国立天文台

画像8(左):画像4に画像6の模式図を重ねたもの。(c) 国立天文台 画像9(右):同じく画像5に重ねたもの。(c) 国立天文台

連星系のアウトフローやジェットは天体ごとに個性があるが、今回観測されたぎょしゃ座UY星では、連星系中心部の小さいスケールで、主星・伴星それぞれの星周円盤から、異なる形のアウトフローとジェットが生じていることが確認された(画像10)。このような構造がどのくらい普遍的なのかを調べるためには、より多くの連星系を高い解像度で観測する必要があるという。研究チームは今後、円盤どうしをつなぐガス流などの構造を調べるための研究も進める予定とした。

画像10。ぎょしゃ座UY星から出る複雑なアウトフローの構造の想像図。(c) 国立天文台