東北大学は5月23日、ロシア科学アカデミーシベリア支部ソボレフ地質学鉱物学研究所、同ウラル支部鉱物学研究所、ノボシビルスク州立大学との共同研究により、2013年2月にロシア・チェリャビンスク州に落下した隕石の「衝撃溶融脈」(天体衝突によって隕石の一部が脈状に溶融した部分)の内部を電子顕微鏡で詳しく調べたところ、天体衝突に伴う超高圧・高温条件の下で生成した「ヒスイ輝石(NaAlSi2O6)」(画像1・2)を世界で初めて発見したと発表した。
成果は、東北大 大学院 理学研究科地学専攻の小澤信助教(東北大学グローバル安全学トップリーダー育成プログラム)、同・宮原正明助教(現:広島大学大学院理学研究科・准教授)、同・地球惑星物性学分野の大谷栄治教授らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間5月22日付けで英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
チェリャビンスク隕石から発見されたヒスイ輝石の電子顕微鏡写真。画像1(左):衝撃溶融脈内部。黒色の部分が溶融した斜長石。画像2(右):溶融した斜長石からヒスイ輝石(Jd)が結晶化している。ヒスイ輝石の周りの部分は、急冷固化して非晶質(ガラス)になっている(Gl) |
チェリャビンスク隕石のように、地球の近傍を通る軌道を持つ天体は「地球近傍天体」と呼ばれている(NEO:Near Earth Objectとも呼ばれる)。地球近傍天体はもともと火星と木星の間にある小惑星帯に存在していたものが、何らかの作用により地球に接近する軌道を持つようになったものと考えられてており、将来的には地球に衝突する可能性を持つ。
地球に接近する軌道を持つようになった要因の1つとして考えられているのが、他天体との衝突だ。チェリャビンスク隕石は、高温にさらされ溶融した部分を多く含むことから、地球に衝突する以前に大規模な天体衝突を経験したと推測されている。しかし、その明確な証拠はこれまで示されていなかった。
ナトリウムに富む斜長石である「曹長石(NaAlSi2O6)」は、超高圧・高温下においてヒスイ輝石とシリカ(SiO2)相に分解することが実験的に知られている(画像3)。また、超高圧・高温下で溶融した斜長石を冷却すると、ヒスイ輝石が結晶化することも実験的に明らかになっていた(画像3)。
ヒスイ輝石は化学組成の違いに応じて、白色や緑色などを示し、宝石として珍重されるヒスイの内、「硬玉」を構成する主な物質だ。地球上では、主に変成岩(ある岩石が、地下の高圧・高温の環境にさらされることにより変化したもの)の中に認められるほか、やはり超高圧・高温下にさらされたと考えられる地球上のクレーターの岩石や天体衝突を経験したほかの隕石からも発見されている。この分解反応は3~12万気圧で起きることがわかっており、チェリャビンスク隕石からヒスイ輝石が発見されたことにより、衝突によって発生した圧力が少なくとも3~12万気圧であることが判明した。
画像3は、NaAlSi3O8(青色)と「カンラン石((Mg0.71,Fe0.29)2SiO4:緑色)」の相平衡図。相平衡図とは、一般的には、ある化学組成を持つ物質について、圧力・温度条件に応じてどのような相が安定となるかを図示したものだ。高温高圧下において、斜長石(Ab)は、ヒスイ輝石(Jd)とシリカ相(「石英(Qz)」、「コーサイト(Coe)」、「スティショバイト(Sti)」)という組み合わせに分解する。また、超高圧・高温下で溶融した斜長石を冷却すると、ヒスイ輝石が結晶化することを前述したが、それは「Jd+L」の領域だ。
一方、カンラン石(Ol)は「リングウッダイト(Rwd)」や「ウォズレアイト(Wds)」という鉱物に変化する。RwdやWdsは、高圧・高温下で安定に存在する高圧鉱物だ。地球内部では、深さおよそ410kmから660kmの間にあるマントル遷移層と呼ばれる領域に存在していると考えられている。
そしてチェリャビンスク隕石からは、ヒスイ輝石は確認されたが、RwdやWdsは確認できていない。ヒスイ輝石の存在と衝撃溶融脈の冷却速度などの計算を考慮すると、チェリャビンスク隕石の母天体に大きさ0.15~0.19kmの天体が、少なくとも0.4~1.5km/sの速度で衝突し、その際に少なくとも3~12万気圧の超高圧が発生したと推測されるという(赤色の領域)。
地球近傍天体の起源や軌道の進化を調べることは、将来起こりうる天体衝突の予測に重要だ。チェリャビンスク隕石については、地球衝突の際の軌跡がよく記録されており、軌道計算が精確になされることが期待される。今回推定された衝突イベントを組み込んだ数値計算を行うことにより、チェリャビンスク隕石がどのような軌道進化を辿ったのか、推測できる可能性があるとした。