神奈川県厚木市商工会議所に所属する企業30社による「あつぎものづくりブランドプロジェクト(ATSUMO)」が、神奈川工科大学(KAIT)と厚木市と産学公の連携で、同市のものづくり系中小企業が持つ技術力の高さをアピールすると共に、地域経済の振興、将来の産業界を担う人材の育成に寄与することを目的として行っている「ロボコロちゃんプロジェクト」。
2013年9月30日にその発表会を行い、久しぶりに登場した1.5mオーバー(正式版は1.6m)の大型二足歩行ヒューマノイドロボットであるロボコロちゃんのプロトタイプを披露したが、この度、いよいよ正式版が完成した(画像1~3)。開発を担当しているKAITにおいて、その様子を撮影してきたのでお届けする。
画像1(左):ロボコロちゃん正式版を正面から。画像2(中):上半身を斜めから。画像3(右):顔のアップ。頭に載っているのは、厚木の名産である鮎。あゆコロちゃんも頭に鮎を載せているので、それにならっている |
ロボコロちゃんは、ゆるキャラランキングでここ数年トップ10に入っている「あつぎシティーセールス大使」こと厚木市公式のゆるキャラ「あゆコロちゃん」をモチーフにした(その弟分的存在という設定で厚木市のお墨付きを得ている)ロボットだ。
設計・組み立ては、KAIT 創造工学部ロボット・メカトロニクス学科の兵頭和人教授(画像7・後列ロボコロちゃんの向かって右)の教え子の3名の大学4年生が担当している。プロトタイプは昨年の4年生3名、森栄樹氏、北島尚氏、勝又天理氏が担当し、図面起こしに始まって、パーツ製作、組み立て、モーション作成などを、ATSUMOロボット担当理事で、MANOI企画/ロボットゆうえんちの岡本正行氏らプロのアドバイスも受けながら、すべて学生たちの手で完成させた機体だ。
4月からは新4年生となった、新藤翼氏(画像7・前列向かって左)、漆畑拓斗氏(同・前列右)、石井孝旺氏(同・後列左)、の3人が担当している。ちなみに取材したのは4月28日だったが、その時点では誰がどの担当というのは決まっておらず、今後、という具合のようだ。
プロトタイプと正式版で大きく異なるところは、下半身のフレームが剛性アップのためにCFRP(炭素繊維強化プラスチック/カーボン)に変更された点だ。これまではGFRP(ガラス繊維強化プラスチック/ガラスエポキシ)で、正式版も上半身はそれほど剛性を求められないことなどからガラスエポキシのままである。なお、所々に見える金属はアルミだ(画像8~10)。
ちなみに、正式版では当初からカーボンを利用することが決まっていた。ただし、一発勝負でカーボン製パーツ製作をするのはリスクが大きすぎるので、トライ&エラー構造や強度などの情報収集を行うため、まずはプロトタイプ(画像11)でガラスエポキシを用いたというわけだ。
また外見が大きく変化したのはご覧いただいた通り。この正式版の外装はすべて段ボール製で、ATSUMO所属企業のタイヨーによって作られた(プロトタイプの顔などもタイヨー製)。プロトタイプはあゆコロちゃんに合わせてはっぴを着ていたが、かなり雰囲気が変わった。正式版はロボットらしいというか、顔がヘルメットを被っているのでどちらかというと宇宙服っぽいのだが、とにかく丸々としていたあゆコロちゃんから、かなり直線的なイメージとなった。このデザインは、複数あった案の中からATSUMOのメンバーで投票して決めたそうである。それでは、全身各部のアップ写真をご覧いただこう。
画像12(左):下からあおってのバストアップ。画像13(中):胸部から腹部にかけてを上から。画像14(右):右腕のアップ。上半身はガラスエポキシだが、黒く塗装した外装で腕はカーボン風の感じとなっている |
画像15(左):腹部。かなり凝ったデザインになっているのがわかるはず。画像16(中):足の付け根。ヒザ上の黒い外装はコントラストのためにカーボン風に黒くしてある。画像17(右):スネの部分も黒になっている |
画像21(左):背中全面。やはりかっこいい。画像22(中):腰部に見えているのはバッテリ。画像23(右):足の付け根も干渉しそうなぐらい複雑な形状だが、歩行や起き上がりなどの足の動作には一切影響しない |
画像24(左):左足の付け根。外装はうまくフレームのすき間などを通して取り付けられるようになっている。画像25(中):脚部は基本、カーボンブラックがそのまま活かされている。画像26(右):再び全身図。全身のSFチックな感じと、ヘルメット内のブタ顔とのギャップが面白い |
それでは外装を外した状態での各部のアップをどうぞ。それから、ロボコロちゃんを運ぶ際の「降着状態」ともいうべき、お詫びしているかのような姿勢も併せてどうぞ。外装を着けたままでもこの姿勢を取れる点は驚き。
画像27(左):顔の取り付け部分のアップ。首には3自由度が持たせられており、首を縦と左右に振れ、さらにかしげることも可能だが、取材時は顔が仮止め状態だったので、首を動かすシーンは残念ながら見られなかった。画像28(中):肩部の構造。画像29(右):腹部および腕部。外装を外すと結構細身。極力重量を減らすよう設計されている |
画像30(左):降着姿勢を前から。まさにお詫びしているような雰囲気。画像31(中):降着姿勢を真横から。背骨が90度曲がる。画像28の左下(胴体フレーム)に大きなギアが半分ほど見えているが、ここで曲がるのだ。画像32(右):蹲踞とかうさぎ跳びの姿勢を取れる |
それでは最後にロボコロちゃんの動きを動画で紹介しよう。なお、起き上がりと歩行モーションに関しては正式版用のチューニングが済んでいなかったため、プロトタイプで披露してもらった。起き上がりモーションに関してはロボコンマガジン誌の撮影の関係もあって、外装パーツをプロトタイプに着けた形で撮影している。
なぜ同じ設計のロボットなのに起き上がりや歩行モーションがうまく動作しないかというと、ガラスエポキシとカーボンでは剛性などが異なるため、プロトタイプ用のモーションでは正式版には合ってないためだ。もうしばらくすればこうした微調整もきちんと行われ、ちゃんと正式版も歩いたり起き上がったりはすると思うが、今回はプロトタイプのものでご了承いただきたい。それから確認している最中だが、ロボコロちゃんは起き上がれる2足歩行型のヒューマノイドロボットの中ではおそらく日本一(もしかしたら世界一)背が高いのではないかと思われる。
ちなみに、厚木市在住の小学生を対象としたロボコロちゃんの声を担当する音声タレントの公開オーディションも2014年2月1日に行われ、すでに音声も収録済みだ。しかし、ロボコロちゃんの不調でうまくしゃべれなくなってしまっていたのだが、動画3でプロトタイプを動かしてもらっている最中に唐突に流れ出したので、どんな声かは聞くことが可能だ。
そして、正式版のスペックは以下の通りだ。
- 身長:160cm
- 肩幅:85cm
- 胴体厚(奥行き):50cm
- 重量:17kg(バッテリー含む)
- 自由度:17(脚部10、腕部6、腰1、首3)
- 構造体素材:カーボン、ガラスエポキシ、アルミ板金および切削パーツ
- 外装:カラー段ボール、PP版、塩ビ材など
- 制御ボード:RCB-4HV(通信速度:1.25msec)
- 搭載バッテリ:SHORAI製Lifeバッテリ(LFX18A1-BS12)12V/18000mAh/270A
- 搭載サーボモータ:近藤科学製サーボモータ37個(KRS-4034HV ICE×3、KRS-6003HV ICE Red Version×34個)
- 足裏:ウレタンゴムシート
- 音声ボード:浅草ギ研製MP3音声ボード
- 通信機器:KRC-4AD/無線コントローラ
また、ロボコロちゃんの生みの親といえるATSUMOロボット担当理事の岡本氏と兵頭教授の今後の希望としては、2020年の東京オリンピックで、ロボット聖火ランナーをロボコロちゃんに務めさせたいとしている。現在のところ、2本足で走って聖火ランナーを務めたロボットはいない(車輪型など、それ以外のロボットなら韓国や中国で自国内の競技会で登場している)。「走る」とは、両足が宙に浮いている瞬間がある移動方法のことだが(歩くとは、必ずどちらかの足が地面に着いている移動方法)、現在のところ、瞬間的とはいえそれができるのはASIMOのみ。日本の技術力を世界にアピールするのにASIMOが聖火ランナーを務めるのでは? なんて話もちらほら聞かれるが、ぜひロボコロちゃんも務めてほしいものである(ロボコロちゃんとASIMO、HRPシリーズなどで聖火を渡すなんてのもすごいかと)。
ロボコロちゃんは4月26日・27日に「アミューあつぎ」のオープニングイベントに登場し、厚木市長と握手をしているが、今後の登場イベントとしては、8月上旬に毎年行われる厚木市の夏祭り「あゆ祭り」のパレードに参加する予定とのこと。そのほか、まだしばらく先だが、10月15~17日に東京ビッグサイトで開催される「Japan Robot Week 2014」と、2015年2月4~6日にパシフィコ横浜で開催予定の「テクニカルショウウヨコハマ2015」にも出展するとのこと。ぜひ機会があったら、ロボコロちゃんの勇姿を見に行ってほしい。