東京大学(東大)は5月23日、4種類の低分子化合物のみを誘導因子として用いることで、多能性幹細胞から中胚葉を経由して効率的に骨芽細胞を作製する方法を開発したと発表した。

同成果は、同大大学院医学系研究科外科学専攻医学博士課程の菅家康介氏、同大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻の大庭伸介特任准教授、鄭雄一教授らによるもの。詳細は「Stem Cell Reports」オンライン版に掲載された。

多能性幹細胞の目的細胞・組織への分化には、従来、「動物由来血清およびフィーダー細胞などの正確な組成が不明なものを細胞の培養に用いる」という方法や、「多能性幹細胞が目的としない組織への分化を誘導しかねない胚様体を形成する」という方法、「誘導因子に遺伝子導入や組換えタンパク質を用いる」といった手法があったが、いずれも安全性やコストに関する懸念が存在している。

今回、研究グループでは、これまでの研究で得た知見から、情報伝達物質の活性化により、中胚葉由来の骨格形成を模倣した形で多能性幹細胞から骨芽細胞への分化が達成できるのではないかという仮説を立て研究を行ったという。

その結果、細胞の培養に組成が不明なものを用いることなく、4種類の低分子化合物(GSK3阻害剤、Hhシグナル阻害剤、Hhシグナル活性化剤、ヘリオキサンチン誘導体)のみを誘導因子として用いることで、多能性幹細胞から中胚葉を経由して効率的に骨芽細胞を誘導する方法を開発することに成功したという。具体的には、「多能性維持培養期」、「中胚葉誘導期」、「骨芽細胞誘導期」、「成熟骨芽細胞誘導期」の4つの段階に分けることができ、実際にヒトiPS細胞を培養しようとした場合、マウスES細胞・iPS細胞の場合とは異なる多能性維持培養法を用いる必要があるものの、骨芽細胞関連遺伝子・タンパク質の発現と石灰化を誘導できることを確認したとする。

ただし、マウスES細胞・iPS細胞に比べると、ヒトiPS細胞の骨芽細胞への誘導効率は劣ることから、分化誘導法のさらなる改善が必要だと研究グループでは説明している。また、今回開発された手法は、骨形成メカニズムの解明、骨形成性薬剤のスクリーニング、骨系統疾患の病態解明に役立つことが期待されるとのことで、今後は、今回の知見をもとに、分化誘導法のさらなる改良や適切な担体の選定を進め、多能性幹細胞を用いた新しい骨再生医療につなげていければとコメントしている。

多能性幹細胞を用いた骨芽細胞の誘導法

マウスES細胞で誘導される骨芽細胞マーカーの発現