岡山大学は5月22日、日本人から多く見つかる遺伝子型の菌から抗原を作成することで、従来、欧米人から分離された基準株などを元にしていた胃がんの原因であるピロリ菌の抗体検査試薬に比べ、感度と特異度がさらに向上した抗体検査薬の開発に成功したと発表した。
同成果は、同大保健学研究科検査技術科学の横田憲治准 教授のほか、同大医歯薬総合研究科病原細菌学、同大病院光学診療部、和光純薬臨床検査薬研究所らで構成される共同研究グループの成果。詳細や研究過程については、「第58回 日本臨床検査医学会・岡山」や「第18回 日本ヘリコバクター学会学術集会・岡山」、「第87回 日本細菌学会総会・東京」などで発表されてきたほか、今後、さらなるデータの集積を行い、論文化も目指すとしている。
ピロリ菌は、幼少期などに経口的に胃に感染するが、近年の研究から、局所では胃十二指腸潰瘍、MALTリンパ腫、胃がんなどの原因となるほか、全身性疾患では、血小板減少性紫斑病、動脈硬化、鉄欠乏性貧血などの発症に関与していることが報告されている。また、感染による局所の炎症は、胃潰瘍、胃粘膜萎縮、MALTリンパ腫などに関係し、さらに長期間の局所の炎症反応は、胃の疾患だけでなく全身の疾患に影響し、血小板減少性紫斑病(ITP)、鉄欠乏性貧血、蕁麻疹、動脈硬化などの要因となることも判明してきた。中でも胃がんはピロリ菌感染と密接な関係が報告されており、その対策などが進められている。
今回、研究グループは日本人患者から分離した菌株の病原遺伝子や、宿主細胞接着に関係した遺伝子を調べ、培養した菌から超音波破砕抗原を抽出。それらの抗原と患者血清の反応から、どの抗原が抗体検査による感染診断に有用かを検討したところ、2つの遺伝子型の抗原が診断に有用なことが確認されたという。
胃がんは早期発見できれば、根治的治療が可能であり、、検診などによる早期発見とピロリ菌除菌治療による胃がん発症予防が重要になってきているほか、近年では、胃がん検診として、ピロリ菌の感染の有無と萎縮性胃炎の有無をペプシノーゲン検査にて診断するABC検診が有用とされていることから、研究グループでは、今回の成果により、こうした血液検査の精度向上につながることが期待できるようになると説明している。