物質・材料研究機構(NIMS)は5月19日、北海道大学(北大)と共同で、絶縁体である窒化ホウ素(Boron Nitride:BN)が金電極表面に担持されると、燃料電池の重要な反応である酸素還元反応の電極触媒として機能することを理論的に提唱し、実験的に証明することに成功したと発表した。

同成果は、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス拠点およびナノ材料科学環境拠点の魚崎浩平フェローらによるもの。北大 大学院理学研究院の武次徹也教授らと共同で行われた。詳細は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」、種々の窒化ホウ素を用いた実験結果の詳細については英国化学会「Physical Chemistry Chemical Physics」のオンライン版に掲載された。

水素-酸素燃料電池は、水素と酸素から高効率で電力を取り出し、廃棄物は水だけというクリーンな発電装置である。しかし、普及には解決しなければならない課題がまだ残されている。その1つに、酸素極での酸素還元反応の速度が遅く、反応効率が低いという問題がある。この反応を促進するための触媒として、白金が広く使用されている。しかし、白金は高価で資源量も少なく、安定性にも問題があることから、解決できる新規触媒の開発が進められている。しかし、満足できる触媒は未だに得られておらず、理論と実験の融合により、これまで触媒として検討されてこなかった材料を対象とする新しい触媒の探索が求められていた。

研究グループは、これまで元素戦略的観点から理論と実験の融合による貴金属フリー触媒の開発に取り組んできたが、今回の研究では理論的研究により、本来絶縁体であるBNを金表面に担持すると、その電子状態が変化し導電性が付与されること、またBNに酸素分子が安定に吸着することを見出し、さらに、この表面での酸素還元反応の各過程におけるエネルギー変化の計算を行い、酸素還元触媒として機能する可能性が示された。そこで、実際に金表面に種々の BN(ナノシート、ナノチューブなど)を担持した試料を作成し、回転電極法により酸素還元反応を調べたところ、金電極の酸素還元電流がBNの担持により、最大約270mVも正電位側で観測され、触媒活性が確認された。一方、炭素電極を基板に使用した場合は、このような触媒活性が観測されなかったことから、BNが酸素還元反応の触媒として働く上で金基板との相互作用が重要な鍵となっていることが実証されたとしている。

今回の触媒は白金に比べてまだ活性は低いものだが、このように理論計算と実験の融合により新規触媒材料の探索・設計に対して、極めて有効な指針を提供できることを示すことができた。このようなアプローチが白金を使用しない燃料電池用電極材料の今後の開発に結びつくものと期待されるとコメントしている。

理論計算によって求めたBN‐金表面に吸着した酸素の安定化構造。(左)酸素分子がBNのホウ素原子上に橋掛け構造で吸着。(右)酸素分子がホウ素原子と金原子との間を橋掛け構造で吸着。数字は原子間距離。(ピンク:金原子、青:窒素原子、灰色:ホウ素原子、水色:水素原子、赤色:酸素原子)

金基板上に担持したBNナノシートの電子顕微鏡写真。(a)金基板、(b)金基板上に担持したBNナノシート、(c)BNナノシートの拡大像