産業技術総合研究所(産総研)は5月19日、化学結合していない分子同士や原子同士に働く弱い凝集力を、波長を調整した光の照射によって増強できることをシミュレーションにより理論的に予測したと発表した。

同成果は、同所 ナノシステム研究部門 ナノ炭素材料シミュレーショングループの宮本良之研究グループ長、非平衡材料シミュレーショングループの宮崎剛英研究グループ長らによるもの。中国四川大学のHong Zhang教授、スペインバスク大学のAngel Rubio教授と共同で行われた。詳細は、米国物理学協会の科学雑誌「Applied Physics Letters」に掲載された。

化学結合していない分子間や原子間にも引きつけあう相互作用が働く。それはファンデルワールス力と呼ばれており、ヤモリが壁に張り付く力やグラファイトなどの層状物質の凝集力、有機デバイスに用いられる分子性結晶の凝集力として注目されている。一方、光ピンセットの手法により分子を光で操作する技術があるが、原子や分子1つ1つに力を及ぼすことは容易ではない。

今回の研究は、分子性結晶の構成に寄与するファンデルワールス力を光で増強して結晶構成プロセスを確実にすることを目的に開始された。その最初の段階の研究として、同様の凝集力を持つ単純な対象のシミュレーションを行い、光の増強効果の実証を試みた。このシミュレーションには、産総研が導入した大規模な並列計算システム「AIST-super cloud; Generation2」が使われた。

その結果、凝集力が増強される原因は、光によりプラスとマイナスの振動する電荷が分子や原子に発生し、それらの間に電気的な引力が生じるためと分かったいう。今回予測された、光による凝集力の増強現象は、有機デバイス材料などに用いられる分子性結晶のように弱い凝集力で構成される構造体の作成技術への応用が期待される。

今後は、より複雑な凝集系のモデルについて、光によるファンデルワールス力の増強を検証し、分子性結晶の作成制御技術とそのデバイス応用に向けたシミュレーションを行う予定とコメントしている。

光照射による振動分極が生じることで分子同士がお互いに近づく模式図。時間とともに分子が近づく様子を、上から下への流れ図で表現してある。δ+、δ-は微小なプラスとマイナスの電荷が示されている