富士フイルムは5月20日、IBMと共同で、バリウムフェライト(BaFe)磁性体を採用した塗布型磁気テープの実走行試験を行い、面記録密度85.9Gbpsiでのデータ記録・再生を実証したと発表した。
デジタルデバイスの大容量化や映像の高精細化に伴い、データ容量が爆発的に増加しており、全世界のデータ容量は2020年にも40ZBに達すると見られている。同時に、大容量データを安価に長期的に保管したいというニーズも高まっている。コンピュータ用磁気テープはHDDに比べて長期保存性、信頼性、コスト面に優れており、アーカイブ市場の拡大を背景に、今後もさらなる需要増が期待されている。
ベースフィルムの上に磁性体を塗布して生産する塗布型磁気テープは、他の生産方式のテープに比べて生産性が高く、コンピュータ用磁気テープの主流となっている。磁気テープの記録容量を大きくするためには、ベースフィルムの上に塗布する磁性粒子を、より小さく形成することが必要となる。富士フイルムは、従来磁性体の主流として使われてきたメタル磁性体に対し、微粒子化しても高い保磁力を有し、低ノイズで周波数特性・長期保存性に優れたBaFe磁性体を開発。これまで、エンタープライズ分野では「IBM3592データカートリッジ(4TB)」、ミッドレンジ分野では「FUJIFIILM LTO Ultrium6データカートリッジ」(2.5TB)にBaFe磁性体を採用し、大容量磁気テープを提供してきた。
今回、独自の塗布型磁気テープ技術「NANOCUBIC技術」をさらに進化させてBaFe磁性体採用の磁気テープの記録密度を飛躍的に向上させ、面記録密度85.9Gbpsiでのデータの記録・再生を実現した。これは、データの記録・再生が可能な塗布型磁気テープとして、世界最高の面記録密度となる。テープの記録密度を向上させるためには、BaFe磁性体を均一に微粒子化する必要がある。しかし、磁性体は微粒子化するほど熱安定性が劣化して、周囲の温度や磁力の影響を受けやすい不安定な状態になり、データの保存性が低下してしまう。そこで、独自の微粒子化技術を開発し、BaFe磁性体を微粒子化しながら、同時に熱安定性の劣化を抑制することに成功した。また、微粒子化したBaFe磁性体を均一に分散する高分散技術と、厚みムラのない薄層磁性層を形成する均一薄膜塗布技術を進化させ、テープ表面の形状を精密に制御し、超平滑面と高い再生出力、高品質な再生信号を達成した。さらに、垂直配向技術を用いてBaFe磁性体をナノオーダーでコントロールして垂直方向に配向させ、広範囲の記録周波数領域で高品質な再生信号を実現した。
これらの技術で開発した磁気テープを、IBMが開発した高性能記録ヘッド、新サーボコントロール技術、新信号処理技術と組み合わせることで、85.9Gbpsiという面記録密度を実証。154Tバイトの大容量データカートリッジの実現に大きく近づいたという。
なお、富士フイルムは、今回の試験で用いた磁気テープを従来の塗布設備で生産しており、実用化にあたって既存設備の応用が見込めることから、量産化の可能性も視野に入れているとコメントしている。