農業生物資源研究所(生物研)は5月19日、キウイフルーツやパイナップル、サトイモ、ヤマノイモ、ブドウ、アロエ、ホウセンカ、ランなどの植物に多量に含まれ、耐虫性を発揮することで知られる「シュウ酸カルシウム」の針状結晶と、タンパク質酵素の1つで耐虫物質である「システインプロテアーゼ」を同時に植物の葉に塗布して昆虫に与えると、相乗作用により高い殺虫効果を示すことを発見したと発表した。
同成果は、生物研 昆虫科学研究領域 加害・耐虫機構研究ユニット長の門野敬子氏、同 昆虫科学研究領域 加害・耐虫機構研究ユニット 主任研究員の今野浩太郎氏らによるもの。詳細は「PLOS ONE」に掲載された。
植物が多量の針状結晶を含むことは以前から知られており、害虫に対する防御効果(耐虫効果)を示すと考えられてきたが、植物に含まれるシュウ酸カルシウム針状結晶の量と植物の耐虫活性の強さが比例しないことも多く、その役割および作用メカニズムはよくわかっていなかった。一方、研究グループのこれまでの研究から、「システインプロテアーゼ」が植物を害虫の食害から守る耐虫効果を示すことが報告されていたが、両者がどう関連しているかもよく分かっていなかった。そこで、今回の研究では、キウイフルーツから純粋なシュウ酸カルシウム針状結晶を精製し、耐虫活性に果たす役割およびシステインプロテアーゼとの関連性の検討を行ったという。
精製された針状結晶やシステインプロテアーゼをエサの葉に塗布して蛾(エリサン)の幼虫に食べさせて効果などを調べたところ、針状結晶だけを塗った葉を食べた幼虫は、何も塗らない葉を食べた幼虫に比べ成長が少し遅くなったことが確認されたほか、システインプロテアーゼだけを塗った薬を食べた幼虫の場合も、何も塗らない葉を食べた幼虫に比べ成長が少し遅くなることが確認された。
ここまではこれまでにも報告されていた内容であり、今回はさらに両者を同時に塗布した葉を食べた幼虫を観察。その結果、数時間から1日の間に身体が黒変・軟化し死亡することが確認されたという。
この結果を受けて研究グループは、市販のシュウ酸カルシウム(砂状結晶)についても効果を調査。その結果、単独の場合、システインプロテアーゼと同時塗布の場合ともに、弱い成長阻害効果しか示さないことも確認したとする。
今回の効果について研究グループでは、シュウ酸カルシウム針状結晶が、害虫の組織や細胞に穴を開けシステインプロテアーゼの体内・細胞内への侵入を容易にする「針効果」によって、システインプロテアーゼの効果を顕著に増強していると考えられると説明しており、今後、キウイフルーツなどのシュウ酸カルシウム針状結晶をもつ作物において、システインプロテアーゼの発現量が多い系統を育成していくことで、害虫による作物の被害を防ぐ新技術の開発へつながることが期待されるとコメントしている。