東京大学は5月16日、金属酸窒化物の薄膜結晶の一部で、強誘電体的な挙動を観察したと発表した。
同成果は、同大大学院 理学系研究科の長谷川哲也教授らによるもの。神奈川科学技術アカデミーの透明機能材料グループと共同で行われた。また、試料評価の一部は文部科学省の支援を受けた東京大学 先端ナノ計測ハブ拠点、東京大学 大学院工学系研究科、筑波大学 研究基盤総合センターで行われた。詳細は、英国科学専門誌「Scientific Reports」に掲載された。
酸窒化物は、金属が酸素と窒素の両方と結合した物質で、酸化物、窒化物に続く新たな電子機能材料として期待されている。しかし、従来法で得られる紛体試料は正確な電気測定が難しく、高品質な結晶の合成が望まれていた。
今回の研究では、レーザとプラズマで原材料を気化・活性化して反応させる窒素プラズマ支援パルスレーザ堆積法を用いて、代表的な酸窒化物材料であるペロブスカイト型SrTaO2Nの薄膜結晶を合成することに成功した。合成条件を最適化した結果、この薄膜結晶は酸化物や窒化物などの不純物を含まず、さらに薄膜中に強誘電体的な応答を示す微小領域が存在することを明らかにした。このような強誘電体的挙動が観察されたのは酸窒化物では初めてという。
SrTaO2N薄膜は青色から緑色の可視光を吸収できるため、強誘電体を用いた光センサや太陽電池に利用することで、変換効率の向上につながる可能性がある。また、第一原理計算の結果、今回観察された強誘電性は、結晶内での酸素と窒素の並び方に関係があることが示唆されている。今後、酸窒化物を用いた新たな電子材料を開発する上で重要な指針になることが期待されるとコメントしている。