富士フイルムは5月16日、微細な半導体結晶である量子ドットの集合体からなる薄膜において、量子ドット間の距離を精密に制御することで、光エネルギーを効率的に電気エネルギーへ変換することに成功したと発表した。
同成果は 同社と京都大学 化学研究所の金光義彦教授らによるもの。詳細は、英国王立化学会誌「Chemical Science」のオンライン版に掲載された。
現在、量子ドットの重要な性質として、1つの光子から複数の電子(および正孔)が生成されるマルチエキシトン生成(MEG)効果が知られている。このMEG効果を活用して発生させた光電流を効率的に抽出できれば、高い変換効率の太陽電池や発光素子など、次世代光電変換デバイスの開発につながると期待されている。しかし、MEG効果によって生成された複数の電子は、オージェ再結合という現象により、わずか数十~数百ピコ秒程度の時間スケールで1つの電子(および正孔)に戻ってしまう。そのため、現在の量子ドット薄膜においてMEG効果を効率的に活用するためには、オージェ再結合の抑制が課題だった。また、MEG効果によって発生した光電流を効率良く取り出すためには、量子ドット薄膜におけるドット間の電気伝導度を向上させることも課題である。
今回、富士フイルムと京都大学は、MEG効果を光電流として効率よく抽出するため、銀塩写真分野で培ったナノ粒子表面修飾技術を応用し、一般的な量子ドット薄膜の配位子を、ドット間の相互作用を高めるチオシアン系分子に置換した量子ドット薄膜を形成した。チオシアン系分子で量子ドット間の距離を精密に制御することで、ドット間の電気伝導度を、一般的な量子ドット薄膜と比べて7桁程度向上させることに成功。すでにMEG効果が報告されている、配位子にジチオール系分子を採用した量子ドット薄膜と比較しても、電気伝導度が1桁程度向上しているという。また、チオシアン系分子を配位子として採用した量子ドット薄膜では、従来に比べオージェ再結合が抑制されていることを確認した。今回の量子ドット間の距離を精密に制御する技術により、効率的に光エネルギーを電気エネルギーへ変換できることを実証したとしている。
今後、量子ドットを用いた次世代の塗布型エレクトロニクス分野における基盤技術として、太陽電池や光検出器、薄膜トランジスタなど、さまざまな用途への展開が期待されると説明している。