国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼうで」で高品質のタンパク質結晶を生成し、多剤耐性菌や歯周病菌の生育に重要な酵素とよく似たペプチド分解酵素の立体構造を解析するのに、日本の研究グループが成功した。この酵素がペプチドを分解する際の反応の仕組みも原子レベルで解明し、多剤耐性菌への新しい抗菌薬の開発に役立つと期待されている。

写真. 構造が解析されたペプチド分解酵素 DAP BⅡの全体構造と、ペプチドと結合した様子など(提供:岩手医科大学)

岩手医科大学薬学部の阪本泰光(さかもと やすみつ)助教と昭和大学薬学部の田中信忠(たなか のぶただ)准教授、長岡技術科学大学工学部の小笠原渉(おがさわら わたる)准教授、宇宙航空研究開発機構の太田和敬(おおた かずのり)主任開発員らの共同研究で、5月15日の英科学誌サイエンエンティフィックリポーツに発表した。

研究したのはペプチド分解酵素 DAP BⅡ。多剤耐性菌や歯周病菌のペプチド代謝に重要な役割を果たす酵素と非常によく似た構造と機能を持つ。地上の実験では、十分な結晶ができず、X線でも3.4オングストローム(1オングストロームは100億分の1メートル)までしか解析できなかった。宇宙ステーションの微小重力環境で、2011年にきれいな結晶を作ってもらい、それを大型放射光施設のSPring8(兵庫県佐用町)などに持ち込んで、X線で結晶を解析した。

宇宙での結晶化で結晶の品質が大幅に改善し、1.95オングストロームまで分解できるようになった。このペプチド分解酵素の仲間としては世界で初めて構造を突き止めた。これまでに知られていない新規の構造だった。DAP BⅡと分解産物との複合体の構造も解析でき、酵素反応の様子まで詳細にわかった。

研究グループは、今回の構造解析の成果を基に、多剤耐性菌や病原性細菌に効く阻害剤の設計などを通じて、新規抗菌薬の開発を目指している。岩手医科大学の阪本泰光助教は「宇宙できれいな結晶ができたので、ここまで構造を詳細に解析できた。宇宙実験ならでは成果だ」と話している。