大阪大学(阪大)は、「繊毛」の先端部においてタンパク質輸送を制御する仕組みを解明し、その個体発生における重要性を明らかにしたと発表した。
成果は、阪大 タンパク質研究所の古川貴久教授、同・大森義裕准教授、同・大学院生の茶屋太郎氏らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、5月5日付けで科学誌「The EMBO Journal」に掲載された。
繊毛はほとんどすべての細胞に存在する、微小管を軸とした突起状の構造物だ。さまざまな種類があり、回転運動により水流を生み出す運動性のもの、細胞外からのシグナルを受け取るアンテナとして機能するものがある。この繊毛に機能異常が生じると、ヒトにおいては網膜色素変性症、不妊、嚢胞腎、肥満、多指症、水頭症など、「繊毛病」と呼ばれるさまざまな疾患を引き起こしてしまう。
また繊毛内のメカニズムに目を向けると、根本から先端(順向き輸送)、そして先端から根本(逆向き輸送)へとタンパク質の輸送がなされており、繊毛の形成・機能に必須の役割を果たしていることがわかっている。このタンパク質輸送において、繊毛の先端においては順向きから逆向きへの方向転換が起こっていることが確認済みだが、それを制御するメカニズムはこれまでのところわかっていなかった。
そうした背景の下に研究チームが今回の研究で繊毛の先端に局在する因子として発見したのが、リン酸化酵素の「Intestinal cell kinase(ICK)」だ。ICKの欠損マウスは多指(画像1・2)や水頭症様の脳室の拡大(画像3・4)などの発達異常を示し、繊毛の数と長さの減少が認められたのである。
ICK欠損マウスは多指となる。野生型(画像1(左))およびICK欠損マウスの前肢においてアルシアンブルーを用いて軟骨が、アリザリンレッドを用いて骨が染色されたもの。ICK欠損マウス(画像2(右))においては指の数の増加が認められる(スケールバー:2mm)。 |
ICK欠損マウスは水頭症様の脳室の拡大を示す。野生型(画像3(左))およびICK欠損マウス(画像4(右))の脳の切片を用いてニッスル染色が行われたもの。ICK欠損マウスにおいては脳室の拡大が認められる(スケールバー:1mm) |
またICKの欠損により、繊毛内輸送を担うタンパク質複合体の構成因子である「IFT-A」や「IFT-B」、「BBSome」などが繊毛の先端に蓄積していることも確認された。その一方で、ICKの過剰発現は、特定の構成因子(IFT-Bのみ)の繊毛の先端への集積を引き起こすことも見出されたのである(画像3)。これらの結果から、ICKは繊毛の先端に局在して繊毛内におけるタンパク質輸送の方向転換を制御し、繊毛の形成に寄与することによって、個体発生において重要な役割を果たすことが明らかとなったというわけだ。
近年、繊毛の形成に関わる因子が多く同定されてきたが、繊毛の形成メカニズムに関しては不明な点が多く残されている。今回の成果は、今まで明らかでなかった繊毛の先端部におけるタンパク質輸送の制御の仕組みを解明したことによって、繊毛形成機構の新たな理解に貢献するものとする。また、今回の研究は繊毛という対象をタンパク質の輸送制御というこれまでにない視点からとらえたものであり、繊毛病の発症機構の解明や治療法の開発に向けての新たな切り口となると考えられるとした。